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エリック・カイザー氏と木村周一郎氏の対談レポート。伝統的なパン作りが世界の新たなトレンドに

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伝統的な本物のパンを作ることが、むしろ新しいと支持される

「本来のパンは、小麦・水・塩・ルヴァン(天然酵母種)のみを使い、そこに伝統的なアルチザン(職人)の技と情熱が加わって出来上がる、きわめてシンプルな作り方です。『エリックカイザー』で大切にしているのは、これらの基本素材を使い、すべてのパンを手こねで作ることです」(カイザー氏)

各国で様々な発展をしてきたパン文化だが、世界全体を見ると、いつの間にか伝統的な本物のパンは希少な存在になっているのかもしれない。両氏がこだわる本物のパン作りは、現代ではむしろ新しいと支持されているのである。

ただし、本物のパン作りはシンプルだといっても、それを実現することは容易ではなかった。日本で『メゾンカイザー』を始めた当初は、フランスから小麦粉を輸入していたものの、湿度など気候条件が異なるため思う通りの出来上がりにならず、改良を重ねた結果、現在では国内で独自にブレンドした小麦粉と北海道産のバターを選んだ。

「気泡が不規則に並んでいるのが本物の証」とカイザー氏。(C)Boulangerie Eric Kayser Japon Inc.

木村氏は、「力のない小麦粉はパンになりにくいので、添加物や工業的な手段に頼らなければいけませんが、いいパン作りに適した良質な素材を天然酵母で長時間かけて発酵させ、熟練した職人が手でこねたパンの美味しさは明白です」と語る。

そしてカイザー氏は、「本物のいいパンは、手でちぎってスポンジのように押し、香りをかいでみると分かります。美味しいクロワッサンは新鮮なバターの香り、バゲットは豊かな小麦の香りがします。また、いいパンの条件としては、茶色(カラメリゼーション)や黄金色(メイラード反応)が混ざり合っている色合いをしていること、クリスピーな音、大きい気泡が不規則に並んでいること、中がもっちり・しっとりしていること、そして断面をなでてもボロボロと崩れないことなどが挙げられます。ぜひ『メゾンカイザー』のパンで試してみてください」と、両氏がこだわる本物のパンの美味しさについて、自信たっぷりに語っている。

私たちが本物のパンの良さや美味しさを知り、むしろ新しいと支持するのは、パンの歴史からすると少々皮肉かもしれない。コーヒー、ワイン、チョコレート、発酵食品などにみられるように、それぞれの食の原点を見直す動きが最近は注目されている。大量生産や大型チェーン化などによる食文化の変遷に伴って失いつつあるものの中に、新しいトレンドが見つかるかもしれない。

木村周一郎氏とエリック・カイザー氏。(C)Boulangerie Eric Kayser Japon Inc.

エリック・カイザー氏
祖父から3代にわたってパン職人であるカイザー氏は、15歳でパン職人となる。パリの専門学校INBPフランス国立製パン学校での指導にあたりながら、1996年に『メゾンカイザー』の1号店をパリにオープン。現在、フランスで30店舗、ヨーロッパ諸国、アメリカ合衆国、ロシア、香港、南米など世界各地に150店舗を展開。

木村周一郎氏
「銀座木村屋総本店」創業家出身の木村氏は、米カンザス州で小麦粉の化学について研究をした後、NYで修行。その後フランスに渡り、パリの専門学校INBPフランス国立製パン学校でパン作りの指導にあたっていたエリック・カイザー氏に師事、パリの『エリックカイザー』で修行を積む。その後、木村氏はエリック・カイザー氏との共同出資で、『メゾンカイザー』の日本及びアジア圏のブランド管理会社として、2000年に株式会社 ブーランジェリーエリックカイザージャポンを設立。翌2001年に東京・高輪に初出店し、現在では国内に26店舗を展開している。

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TAKAKO

ライター: TAKAKO

外資系のPR代理店やホテルの広報を経て、ライターとしての活動を開始。食に関しては、日本酒利酒師や野菜ソムリエなど興味の赴くままに手を広げつつ、寿司からフレンチまでちょっとマニアックな料理教室に通うのがライフワーク。