堀江貴文氏の新著『グルメ多動力』が発売、ホリエモン流「飲食店成功の秘訣」を語る

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コミュニケーション力こそが大事、ラーメン「一蘭」のコミュ力とは?
堀江氏は同著の中で、極論すれば今後の飲食店は二極化すると予想している。二極とは「完全無人化を目指す店」と「コミュニケーション力のある店」である。効率化を目指す無人化が進む一方、現代の飲食店にはコミュニケーション力が大事という持論を展開する。2017年に行われた「FOODIT TOKYO」で「飲食店の究極の形はスナック」とコミュニケーション力を強調していたのは記憶に新しい。そうした視点から第5章は「最も大事なのはコミュニケーション能力である」というタイトルで論じられている。
飲食店のコミュニケーション力については、店と客、あるいは客と客のウエットな関係だけを良しとするのではなく、とんこつラーメンの人気店『一蘭』のような特異なコミュニケーション力もあることを指摘している点が堀江氏らしい視点と言えるかもしれない。
本著の後半は特別対談3本が収録されている。『肉山』の光山英明氏、『鮨人』の木村泉美氏とは1対1で、モデル・ライターで食べログの「グルメ著名人」の斉藤アリス氏、ぴあ『東京最高のレストラン編集長』兼テリヤキストの大木淳夫氏とは3人の対談。飲食業界で革新的なシステムを導入し、多店舗展開を行う光山氏に、富山県で人気寿司店を経営する木村氏と、今を代表する経営者2人。また、食べる側からの斉藤氏・大木氏と、店側、客側双方の立場から意見をやりとりしている点が堀江氏ならではと言えるのではないだろうか。
繁盛店オーナーと堀江氏との違い、その私的見解
全体的に平易な文章で読みやすく、その上、飲食店経営にはヒントになりそうな要素が詰まっている。SNSの利用法、ドタキャンへの対策などはさすがと言うべきであり、経営者は一読したい一冊と言えるかもしれない。
筆者の感想は、一言で言うなら「堀江氏らしい書籍」。ビジネスの世界で徹底的な合理性を武器に日本の旧システムに挑戦し続けている堀江氏であるから、飲食業界に対してもそのスタンスは変わっていないように感じられた。顧客の期待する質もしくは量の需要を上回る供給があれば、ビジネスは成立するはずという考えが根底にあるように思う。「コミュニケーション力」もその文脈の中でとらえるべき問題である。その中で無駄を省くためのツールを使いこなし、時代のトレンドを的確に掴むことの重要性は堀江氏の主張する通りであるし、本書から学ぶべき点は少なくない。

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ただ、多くの繁盛店のオーナーを取材してきた私には、本書を通じて、彼らと堀江氏との決定的な違いも感じる。最大の違いは彼らのほとんどが堀江氏には感じることがない、ある種の「愚直さ」を持っていることである。彼らも顧客の期待する需要を上回る供給を提供する使命感を持って店舗を運営しており、その点は堀江氏と共通であろう。しかし、そのベースは「お客さんの喜ぶ顔が見たい」「お客さんといい関係を築きたい」という、営利を超えた愚直なまでの本人の信念、生き様にあるように思う。一方の堀江氏のベースになっているのは「合理性の追求」ではないだろうか。
客のサイドでもある種の合理性を追求するのは当然であるが、同時に人間は感情の動物でもある。訪れた店のオーナー、その影響を受けたスタッフから「お客さんの喜ぶ顔が見たい」という強い願いを感じることができたら、理屈を超えた部分でその店に足が向く。それは「コミュニケーション力」という店舗経営における重要な要素であるということに間違いはない。しかし、堀江氏にとっての「コミュニケーション力」は目的達成のための手段であり、多くの繁盛店のオーナーにとってはそれ自体が目的で、店舗運営がその手段であるように感じる。
より抽象的な話をすれば、繁盛店のオーナーの多くは「人が好き」であり、メディアを通じて出てくる堀江氏の言動からは「人が好き」という思いを感じることはできない。それは堀江氏を批判するものではなく、彼のパーソナリティーであり、そのことがビジネスへのアプローチの違いとなっているのであろう。
経営のヒントになるという以外にも、そうした堀江氏の考え方の一端を想像することができるという点で、本書は読む価値はあると思う。
