飲食店経営者の「年収」や「悩み」をアンケート調査。赤字店の98.1%が「集客力」に課題
開業後、3年以内の廃業率が7割ともいわれる飲食業。事実、日本政策金融公庫が2016年に発表した「新規開業パネル調査」の業種別廃業状況のうち、最も廃業の割合が高い業種は「飲食・宿泊業」であった。他業種よりも参入障壁が低く開業しやすいメリットはあるものの、生き残っていくのはやはり難しい。経営的な悩みを抱えながら店舗運営をしている飲食店オーナーも多いのではないだろうか。
しかし、飲食業は生き残るが難しいとはいっても、売上が右肩上がりの繁盛店も数多くある。黒字店・赤字店の違いは一体どこにあるのだろうか。そこで、今回の「飲食店リサーチ」では、飲食店経営の実態に関するアンケート調査を実施。黒字店と赤字店、それぞれが抱える悩みについて、そして調査から得られた飲食店経営者の「年収」についても紹介していく。
■調査データ概要
調査対象:飲食店.COM会員(飲食店経営者)
有効回答数:176名
調査期間: 2018年1月23日~2018年1月28日
調査方法:インターネット調査
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■回答者について
本調査にご協力いただいた回答者のうち74.4%が1店舗のみを運営しております。また、回答者のうち東京にある飲食店の割合は61.9%(首都圏の飲食店の割合は76.7%)となっており、こうした背景が結果に影響していると推測されます。
なお、回答者の男女比は、男性(90.3%)女性(9.7%)、年齢比は、29歳以下(1.7%)、30代(21.6%)、40代(51.7%)、50代(21.0%)、60歳以上(4.0%)、となっています。
飲食店経営者の休日は「月6日以下」が8割
「働き方改革」が話題となる昨今、大手外食チェーンを中心に、従業員へ積極的に休日を取らせる動きが出てきたが、飲食店経営者は実際にどれくらい休めているのだろうか。月の休日日数について尋ねると、「4日以下(40.3%)」「5~6日(40.9%)」「7~8日(12.5%)」「9~10日(4.0%)」「11日以上(2.3%)」という結果に。「4日以下」の回答者と「5~6日」の回答者を合計すると81.2%となり、多くの飲食店経営者が月に6日以下の休日日数で働いていることがわかった。
2017年の業績は? 黒字店は約7割
続いて、2017年(平成29年1月~12月)の業績について聞いたところ、「黒字(69.9%)」「赤字(30.1%)」という結果に。7割の飲食店が「黒字」との結果だが、国税庁の「会社標本調査」によると、飲食旅館業の欠損法人(赤字法人)の割合は、平成27年度が75.1%、平成26年度が78.0%、平成25年度が79.5%となっており、今回のアンケートの結果とは対照的に赤字法人の割合が黒字法人の割合を大きく上回っている。これは、国税庁の調査が法人を対象としているのに対し、本アンケートでは1店舗のみを運営する経営者の割合が高く、また個人事業主が多く含まれていることなどが理由として考えられる。
飲食店経営者の年収は?
さらに飲食店経営者の年収について聞いたところグラフのような結果が得られた。最も回答数が多かったのは「299万円以下」で全体の18.8%、次いで「400~499万円」が13.1%と続く。黒字店と赤字店とで比較すると、年収500万円以上の経営者は黒字店で52.6%に達するのに対し、赤字店では20.5%という結果に。また1,000万円以上の年収を得ている経営者は全体の8.0%にとどまった(年収「非回答」を分母から除いて算出)。
ちなみに本調査の回答者のうち74.4%が1店舗のみを運営しており、個人事業主の割合が高いことが考えられる。個人事業主の場合、生活のための支出、事業に関わる支出の一部についてを経費として計上している可能性があり、本調査結果について考察する際にはこれらの事情を考慮する必要がある。
最大の悩みは「集客」
ここからは飲食店経営者が抱えている悩みについて結果を見ていこう。最も悩んでいるのは、やはり売上に直結する「集客」について。赤字店に限定すると、じつに98.1%の経営者が集客における悩みを抱えていることが分かった。
では、この「集客」という課題に対して実際にどのような対策を行っているのか? 自由記述式で尋ねたところ、最も多く見られたのはやはり近年流行りの「SNS」を使った集客術。SNSは無料で使える点も魅力的だが、上手く運用できればリピーターを囲い込むことにもつながる。ツイッターやフェイスブック、そしてインスタグラムと様々な種類があるので、自店舗にあったものを選んで小まめに情報発信していきたいものだ。また「“この店に来たらこれを食べなければ”というメニュー作り」(東京都/ラーメン)という意見のように、オリジナリティーを打ち出して他店と差別化を図る店も見られた。
このほか、『Foodist Media』で過去に取材した繁盛店の中には、独自性のある集客術で売上を伸ばしている店が多く見られたのでいくつかご紹介したい。例えば、日本酒100種類が飲み放題で楽しめる人気店『KURAND SAKE MARKET』では、毎月多くのイベントを開催。特に2月をはじめとした閑散期には、イベントによる集客で売上を確保しているようだ。
また、千駄ヶ谷にある『野菜を食べるカレーcamp』は、まるで切手のようなシールをスタンプ代わりにした個性あふれるスタンプカードを導入。結果、店の印象が客の記憶に残り、多くのリピーターに愛されている。まさにアイデアで巧みに集客する好例と言えるのではないだろうか。
黒字店と赤字店の「悩み」を比較すると……
黒字店と赤字店の「悩み」を比較すると、赤字店の方が「客単価の向上」「食材費の削減」「生産性の向上」などで悩みを多く抱えていることがわかる。黒字店はこうした悩みに対して、どのような対策を行っているのだろう。まずは「客単価の向上」についての意見を見てみよう。
「希少価値の高い食材選びをすることで、他店との差別化を進め、集客と客単価アップにつなげている」(東京都/フランス料理)
「お会計のついでに買ってもらえる商品(フェアトレードチョコレートなど)を充実させている」(神奈川県/カフェ)
「早過ぎず遅過ぎないタイミングで追加ドリンクを促す。客がもう一品欲しい時に手軽にオーダー出来るように低単価商品を充実させている」(東京都/イタリア料理)
続いて「食材費の削減」についてはどうだろう? 近年は食材価格が高騰する傾向があり、食材費の削減は大きな経営課題でもある。黒字店の手法をみると「いかに安く仕入れるか」という面で工夫を重ねている店舗が多く見受けられた。
「仕入れ先を常に開拓している」(東京都/居酒屋・ダイニング)
「スーパーで安売りしている食材を購入する」(神奈川県/焼き肉)
「生産地に足を運んで仕入れ値をできる限り抑えている」(愛知県/お弁当・惣菜・デリ)
また、食材費の削減には「食材ロス」を減らすことも重要だ。たとえば外食業界で初めてエコマークを取得した『吉野家』のように、ごはんのボリュームを選べるようにするだけでも食べ残しはぐんと減らせる。居酒屋などの業態なら一人客のためにハーフメニューを用意するのもおすすめだ。
そして、「生産性の向上」についてはどうだろう。近年は最低賃金の引き上げや人手不足によって、人件費が上昇している傾向にある。従業員一人ひとりの生産性を高めることは、どの飲食店にとっても大きな課題だと言える。
「スタッフの多能化」(山梨県/カフェ)
「スタッフのモチベーションを上げる為、能力や努力を評価し四半期ごとに時給を見直しています」(神奈川県/居酒屋・ダイニングバー)
スタッフを多様な業務に対応できる人材に育てることで生産性を上げる店舗がある一方で、スタッフの努力を評価してやる気に繋げている店舗もある。やり方はさまざまだが、各店、さまざまな取り組みを行っているようだ。
また最近は、大手チェーン店を中心に最新テクノロジーを用いた生産性向上に取り組む動きがみられる。すかいらーくグループが「セルフレジ」を導入したほか、ロイヤルホールディングスも完全キャッシュレス店舗をオープン。人手不足時代を生き抜く手段としてテクノロジーの力を用いる流れが今後も加速していきそうだ。
黒字店も赤字店も「人材の採用」が課題
最後に注目したいのは、黒字店・赤字店の共通の悩みである「人材の採用」について。飲食業界では長らく人手不足の状況が続いているが、その解決策として「アルバイトの採用は、現在働いているアルバイトから紹介してもらう」(神奈川県/居酒屋・ダイニング)というように「リファラル採用」をあげる店舗が目立った。
さらに求人広告を出す場合もやみくもに広告を掲載するのではなく、「何度か求人広告を出したこれまでの中で、応募が多かったときと同じ時期に広告を出すようにしている」(東京都/居酒屋・ダイニング)という人も。例えば、5月の大型連休明けは、春に入学した大学生が生活に落ち着きを見せはじめ、アルバイトを探し始める時期。こういったタイミングを見計らって、求人広告を掲載するのも一つの手といえるだろう。
さて、今回は飲食店経営の実態について、アンケート結果をもとにご紹介した。どの店舗も悩みや課題を少なからず持っているが、その解決に向けてさまざまな対策を施していることが今回の調査ではわかった。共通の悩みを持つ飲食店経営者は、上で挙げた生の声を参考にしながら、対策に取り組んでみてはいかがだろうか。
「飲食店リサーチ」について
「飲食店リサーチ」では、飲食店を経営する皆さまに、店舗運営に関する様々なアンケートを行っています。 アンケート結果は、飲食店の皆さまに店舗経営のヒントとして活用していただけるよう、レポート記事として公開されたり、 皆さまが利用する業務用商品やサービスなどの開発に役立つデータとなります。