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ホリエモンの「ヴィーガンは健康に悪い」発言に、文教大准教授「栄養学的根拠ない、思い込み」

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ツイッターでの発言が話題になっている堀江氏。写真は「FOODIT TOKYO 2017」での講演の様子(撮影/三原明日香)

実業家の堀江貴文氏(45)が自身のツイッターで絶対菜食主義者・ヴィーガンについて「ヴィーガンとかまじ健康に悪いと思うよ」とつぶやいたことが話題になっている。これに対し非難するコメントが次々と寄せられたが、「こんな奴らのために美味しい肉を食べられない世の中にしたくないので、徹底的に潰します」と反発。もっともこの問題について栄養学の専門家である文教大学健康栄養学部の岩井達(いわい さとる)准教授は堀江氏の発言を「栄養学的に根拠がない」とする。ホリエモンのヴィーガン批判について同准教授に話を聞いた。

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ヴィーガン=絶対菜食主義者、マドンナやトム・クルーズも

そもそもヴィーガンとは何か。絶対菜食主義者と呼ばれ、分かりやすく言えば「植物性食品しか取らない人」のことである。ベジタリアンは肉や魚を食べないが、ヴィーガンはそれに加えて卵、乳製品、ハチミツも口にしない。「動物から搾取しない」という考えに基づくもので、毛皮や革製品なども使用しない。

米国の場合、大人の3.3%がベジタリアンで、その46%がヴィーガンとされる(2016年ギャロップ調査)。総人口を3億人と考えると、およそ450万人がヴィーガンという計算。確かにマイノリティーではあるが、一定数存在するのは間違いない。有名人でもマドンナ、ブラッド・ピット、トム・クルーズ、アリアナ・グランデなどがヴィーガンとして知られている。アスリートには1984年ロサンゼルス五輪の陸上競技で4つの金メダルを取るなどしたカール・ルイスもいる。受け止め方によるだろうが、いずれも不健康なイメージとは程遠い。

堀江氏の発言を考える時に、その属性を考える必要がある。同氏はグルメとして知られ飲食関係の書籍も多く出版し、和牛を世界に向けて発信するコンセプトのユニット「WAGYUMAFIA」を結成し活動を続けている。個人的嗜好からも、そしてビジネス面でも「積極的に肉を食べよう」という立場にいることは間違いなさそうである。そうした立場から、ヴィーガンに対する攻撃的なツイートになった可能性は考えられなくもない。

お話を伺った文教大学健康栄養学部の岩井達 准教授

一方の岩井逹氏は「私は、いわゆるベジタリアンではありません」と話している。つまり、堀江氏から攻撃を受けたヴィーガンのサイドに立っているわけではない。アカデミックな立場から、栄養学的観点で客観的に分析する立場にあるとみていい。

堀江氏の発言について考える場合、「健康」についても定義しておく必要がある。岩井氏は1945年にWHO(世界保健機構)で採択されたWHO憲章の前文の中にある健康の定義が一般的であるとする。「健康とは病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます」(日本WHO協会訳)。そうなると堀江氏は「ヴィーガンは肉体的、精神的、社会的のいずれか、もしくは全部が満たされた状態にない、と思う」と発言したことになる。

Photo by iStock.com/coldsnowstorm

ヴィーガンが唯一摂取できない栄養素「ビタミンB12」

ヴィーガンは動物性食品を摂取しないため、人間に必要な栄養素がとれずに栄養のバランスが崩れ、不健康であると考えることは一定の合理性があるかもしれない。その点、岩井氏によるとヴィーガンが摂取できない栄養素が存在するという。一般的には肉を食べないからタンパク質が摂取できないように感じるかもしれないが、タンパク質は大豆等で補うことが可能である。

「ヴィーガンが唯一、摂取できないのはビタミンB12です。昔の食品成分表にはノリや納豆から摂取できるとされていましたが、実際は摂取できません。このビタミンB12は核酸、赤血球の生成に関与し、欠乏すると悪性貧血の原因になります」。

ビタミンB12はレバー、卵、肉、魚介類などの動物性食品に含まれている。ベジタリアンは卵を食べるから補給できるがヴィーガンは卵も口にしないため、外部からの摂取は期待できない。そうなると堀江氏の言うようにヴィーガンは悪性貧血の可能性があるとも思える。しかし、岩井氏はその点を明確に否定した。

「人間の体にはビタミンB12に含まれるアデノシルコバラミン、メチルコバラミンが不可欠です。その2種類は確かに植物性食品には一切含まれていません。このコバラミンは腸の微生物が作っており、胃の内側の内因子という物質とくっついて運ばれ回腸で吸収されます。そして、使うと6割から7割はリサイクルされるのです。人は生まれた時に母親からコバラミンを受け継ぎ、出生後は母乳から摂取します。出生時には必要な量の数千倍を持って生まれるため、普通は欠乏症になることはありません」。

岩井氏によると、実際にビタミンB12の欠乏による悪性貧血の発症例はわずかに3例しかない。ただし、これは小腸に腫瘍ができたことが原因となっており、ヴィーガンが直接の原因で欠乏症になった例は未だ聞かないという。「唯一心配されるのは、ヴィーガンの母親の母乳で育った子供が、そのままヴィーガンになった場合です。その場合は万が一を考えてサプリメントで摂取した方がいいと言われていますが、まだそうした例は報告されていません」。

Photo by iStock.com/LuminaStock

ヴィーガンは肉体的に問題なし

堀江氏のヴィーガン不健康論については、動物性たんぱくや動物性脂肪を十分に摂取しないことでたんぱく質が不足するという点を指している可能性はある。しかし、この場合でも現代の日本人は動物性タンパク質を摂取しすぎであることの問題点の方が大きいとする。タンパク質は分子が大きく腎臓で血液を濾過する時に、腎臓を痛める危険性を内包。近年タンパク質の過剰摂取による腎臓病も増えており、ヴィーガンはその側面から見た場合でも肉を過剰摂取している者より、よほど危険が少ないというのが岩井氏の結論である。

動物性脂肪についても現代人は摂取しすぎで、戦後、食生活の変化により炭水化物の代わりに動物性脂肪をとる傾向が顕著になって、その結果糖尿病が増加した。植物性食品を中心にした方が生活習慣病の発症の可能性が低いのはよく知られた事実だろう。

以上の点から、WHOが定めた健康の定義に従うと、ヴィーガンは少なくとも肉体的によい状態を損なうことはない。堀江氏が「ヴィーガンは不健康」であるとした理由として、残るは精神と社会について満たされない状態であることが考えられる。しかし、ヴィーガンであるから精神状態が不安定になり、ヴィーガンでない人間は安定しているということは考えられないであろう。また、ヴィーガンは動物からの搾取をせず、血を流すことを嫌うためどちらかといえば平和主義者が多く、社会的に争いごとのない状態を好むと言われ、一般に「社会的に良好な状態ではない」という指摘は当たらないと考えられる。

このような事実から、岩井氏は堀江氏の発言についてこう表現した。「堀江さんは『思う』と言っているわけで、何を思うのも本人の自由です。一連の発言については根拠のない思い込みで、一市民として思いを語っているだけでしょう。ヴィーガンが健康に悪いという、栄養学的根拠はありません」。

岩井達(いわい さとる)
1950年生まれ、米カリフォルニア州ローマリンダ大学卒業。東京ヒルトンホテルにて調理師、米カリフォルニア州の給食会社でヘッドクックを経て1987年から東京衛生病院に勤務し、栄養科長等を務める。2004年神奈川県立保健福祉大学兼任講師、その後、多くの大学で講師を務め、2014年から文教大学栄養学部准教授。「日本人青年期女性におけるベジタリアンダイエットが栄養摂取状況及び骨密度に及ぼす影響」(ベジタリアン・リサーチ、2010年)など論文多数。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/