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飲食店が人件費を削減するための基本的な考え方。スタッフにも理解を得られる方法は?

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Photo by iStock.com/maximkabb

吉野家ホールディングスが6期ぶりに赤字となる見通しだ。食材原価の高騰だけでなく、人件費が利益を圧迫しているのではないかとみられている。

この10月には最低賃金がアップ。どの飲食店も今後はますます人件費の管理に悩まされそうだ。そこでここでは、人件費が経営を圧迫しないためにはどうすればいいか、その方法を考えていきたい。

最初に「人件費率」の現状把握を

まずは、人件費管理の基本をおさらいしておこう。売上に対する人件費率はおよそ30%が目安とされている。食材原価もおよそ30%が目安で、食材原価(F)と人件費(L)を合わせた「FLコスト」を売上の60%以内にしましょうという話はよく耳にしているはずだ。サービスの簡略化が進む今は、人件費率を20〜25%程度に抑える店も増えてきている。

当然のことだが、人件費率を下げれば利益を出しやすくなる。しかし、闇雲に下げただけでは、顧客満足度の低下や従業員の離職などに繋がる恐れがある。食材原価率の設定にもよるが、自店の人件費率を何%にすべきなのか、この初期設定をしっかりと考えておくが大切だ。まずは、目安の30%を超えていないかどうか、これまでの収支を改めて見直してみよう。

仮に、月商300万円の店舗で人件費率が30%であれば、人件費は月に90万円かかっていることになる。これを25%に抑えることができれば、人件費は75万円となり毎月15万円の削減。1年では合計180万円の利益アップに繋がるというわけだ。現状の把握ができたら、人件費率の目標数値を作り、具体的な改善プランを実行していこう。

Photo by iStock.com/shcherbak volodymyr

オペレーションの簡略化、セルフサービスの導入

最初に検討をしたいのがオペレーションの改善だ。オペレーションとは、「客の来店」「注文」「調理」「提供」「会計」などサービス全ての流れのこと。これらの動きを見直すことで人件費の削減が期待できる。

例えば、来店がある度に、メニューブックと水をテーブルまで持っていく、コーヒーと一緒に砂糖やミルクを別々の容器に入れて提供する……、一見するとごく普通のサービスではあるが、実際にはかなりの手間がかかっている。これらの動きをシンプルにして作業工程を減らすだけでも、年間ではかなりの人件費削減になると言われているのだ。サービスの低下にならない範囲内で、オペレーションの簡略化を検討してみよう。

また、フルサービスにこだわらず、一部だけでもセルフサービスを導入するのもいいだろう。例えば、券売機の設置。注文時のオペレーションだけでなく、会計やレジ締め作業も省略できる。テーブルオーダーシステムの導入もホールスタッフの人員削減、業務効率化に役立ちそうだ。もちろんこれらには初期導入費用がかかるが、導入後は確実に人件費を抑えられる。年間の人件費と機器の導入コストを比較してみるといいだろう。

しかし何でもかんでも効率化、簡略化……となると店のイメージは悪くなる。南青山のフレンチレストラン『L’AS』は、効率化を顧客満足に変えている好例だ。同店では、5,000円のリーズナブルなコース料理を提供しているのだが、一般的なオペレーションではやはり人件費がかさんで利益が出にくい。

そこで、人件費を抑えるひとつの手段として、こんな方法を取り入れている。カトラリー類全てを各テーブルの引き出しにあらかじめ収納しておくことで、オペレーションの効率化を行っているのだ。お客からしたら、手間を省かれたというよりも、きっと「珍しくて楽しい!」と感じる人の方が多いだろう。『L’AS』のように、効率化をエンターテイメント化することができれば、売上や話題性アップにも繋がるはずだ。

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シフト、分業制を見直して労働時間を減らす

飲食店には必ず、ピークタイムとアイドルタイムがある。それぞれ時間帯の売上や集客の傾向などを分析し、適切な人員配置をし直すことも人件費削減において非常に大切なポイントだ。

まずはピークタイムに合わせて、スタッフのシフトを細かく調整してみよう。もし1日30分の削減で人件費を500円削減できたなら、月間で15000円、年間で18万円にもなる。深夜に行なっている仕込みや事務作業をアイドルタイムに行うのも効果的。営業終了後に仕事が残っていても、翌日のアイドルタイムに回すなどして残業を少なくできれば人件費の圧縮になる。

フルタイムのスタッフだけでなく、3~4時間程度の短時間労働の社員やスタッフを増やしておくのもいいだろう。ピークタイムに合わせてピンポイントで勤務してもらえば、その前後のシフトの無駄がなくなるというわけだ。繁忙期と閑散期でシフトを柔軟に変更しやすいというメリットもある。

また、厨房とホールの「分業制」を廃止して、全てのスタッフをユーティリティープレイヤーとして育てておくのも一案だ。ホール2名・厨房2名としていたシフトを、ホール1名・厨房1名・兼業1名の3名体制として1名減らすことも不可能ではない。もしスタッフに欠員が出た場合にも、シフトの穴埋めがしやすいのでスムーズな対応ができるだろう。

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スキルの高い社員で生産性をUPする

すぐにスタッフが辞めてしまうタイプの店も人件費が高くなりがちだ。例えば、生ビールを注ぐといったちょっとした作業でも、新人スタッフと熟練のスタッフでは提供時間にかなりの差が出る。仮にわずか数秒のロスでも長期的に見ると、時間あたりの生産性に大きな影響を与えることになるのだ。つまり、「スタッフが働き続けたい店」になることは、人件費削減の重要な要素だということ。そのためには、労働環境の見直しも必要不可欠な課題だと言える。

具体的には長時間労働をさせない、他業界と同等の休暇日数を設ける……など。労働環境の「ホワイト化」を進められれば、自然と従業員の定着率も上がる。そうすればよりよい人材が集まり、さらに生産性がアップする、という好循環につながるはずだ。決して短期間で結果が出るものではないが、3年先、5年先を考えて早めに着手しておきたいところだ。

新人研修にもアイデアを!

新しいスタッフを採用する時期も人件費が増えやすい傾向がある。採用コストはもちろんだが、研修時には新人スタッフの教育係も必要となるからだ。研修が長引いたりして予想外の人件費がかかってしまうことも考えられる。

そこで、接客の基本やオペレーションのマニュアルを動画で作成しておくという方法もある。そうすれば教育係は不要になり、どのスタッフでも同程度の時間で研修を終えることができる。もし習得が遅いスタッフの場合でも動画を繰り返し見ればいいだけなので余分な人件費はかかりにくい。

『串カツ田中』は、新入社員スタッフを中心とした「研修センター店」を運営している。実戦形式で新人スタッフに経験を積ませながら、教育係を最小限にして人件費を圧縮しているという画期的な例だ。サービスの質の高さは望めないぶん、ドリンクを格安で提供して集客力を落とさないようにしている。

人件費を抑えるというと、時給を下げる、少ない人数で運営する……つまり、辛い、苦しいといったマイナスのイメージが強いかもしれない。しかし、考え方次第では、無理なく快適に人件費を抑えられることができる。これを機に、現在の人件費率やシフトを見直し、利益の出やすい経営体質に変えていけるようひとつずつ改善案を実行してみてはいかがだろうか。

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大槻洋次郎

ライター: 大槻洋次郎

父親が喫茶店を営む家庭に生まれ、31才の時にカフェで独立開業。個人経営のこだわりカフェの先駆者的存在となった。現在は大手カフェスクールや展示会での講師活動、飲食店の開業支援などを行なっている。現場目線の初心者でもわかりやすいノウハウに定評がある。メディア出演も多数。得意料理はパスタ。