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日本の飲食店がアメリカで成功するには? 「北米進出セミナー」完全レポート

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Photo by iStock.com/ablokhin

日本の食が世界で注目を集める昨今、多くの外食企業が海外へ出店している。飲食店経営者にとって海外への進出は、一種の夢ではないだろうか。そこでの成功は経済的なメリットだけではなく、ブランドイメージの向上、従業員のモチベーションアップにつながり、企業の成長を促す。

弊社では飲食店経営者を対象に「北米進出の大チャンス! 海外出店セミナー」を開催。米国への出店について、現地で活躍する識者を招いて詳しく語っていただいた。今回はその内容をお伝えしていきたい。

米国でアジア系の人口増、日本食への潜在需要は旺盛

第一部では西本Wismettacホールディングス株式会社・事業企画室の山本拓氏が登壇。米国の飲食業界の現状について説明が行われた。

日本食レストランは2010年には1万店を超える程度だったものが、2017年には約2万1000店に倍増しており(Yellow Pagesの店舗数を算出)、その約10~15%が日本人オーナーで、ほとんどがアジア人や現地ローカルで経営しているのが現状である。米国内のアジア系の人口は、2000年に約1024万人だったものが2018年には約2218万人と倍増、日本食の需要を下支えしている。日本食が受け入れられる潜在需要は豊富にあるということだ。

ホットな食としては、定番の寿司やラーメンに加え、「poke(ポケ)」という魚介類の切り身に香辛料を加えたハワイ料理が話題だ。日本で言う海鮮丼で、和のテイストを持った料理だと言える。オペレーションがしやすいという点も、経営者が「ポケ」を扱う店舗を開店する理由の一つだろう。

西本Wismettacホールディングス株式会社・事業企画室の山本拓氏

ちなみに、アメリカでは和食に独自の解釈を加えた、つまり「ローカライズ」された和食が定着しつつあるという。例えばカリフォルニアロールが代表的で、今やアメリカで「寿司」といえば“ロール”を指すことが多い。またラーメンも、アメリカ人がオープンした店では、具材としてクレソンが用いられているなど日本にはないアレンジが見られる。さらにマグロの代わりにトマトを用いた寿司も注目を集めている。このようにアメリカ人の嗜好に合わせて和食をカスタマイズしていくことが、成功の鍵になることを山本氏は指摘している。

また、アメリカのマーケットの近年の特性として菜食主義者の増加も指摘された。ベジタリアン、ヴィーガン(絶対菜食主義者)は2009年には人口の1%だったものが、2017年には6%にまで上昇(東京ビーガン調べ)。昨今の健康志向と合わせて和食を後押しする要因となっている。

もう一つの特性が、人種による好みの違い。ラーメンであれば日本では醤油、豚骨、味噌、塩と多彩だが、米国のアジア系や白人が好むのは豚骨やスパイシーな風味。このあたりの分析を誤るとビジネスに失敗する可能性がある。

こうした市場の特性を踏まえ、山本氏は「人種が多様なので、どの方々に食べていただきたいのか、ターゲットを定めることが大事です。それによって進出するエリアも含め、アプローチが変わってきます」とまとめた。なお、米国でアジア系の人が多い州は1位カリフォルニア州(約472万人)、2位ニューヨーク州(約139万人)、3位テキサス州(約95万人)となっている(出典:U.S.Census 2010)。

北米で人気の「Poke」。Photo by iStock.com/Louno_M

開店までの12のステップ。1年ほど時間がかかってしまう米国の事情

具体的に米国で出店する場合、出店計画から開店まで、山本氏は12のステップがあるとする。

1、出店計画
2、市場調査
3、候補地域の選定
4、不動産業者の選定
5、最終計画の作成
6、現地法人設立
7、物件購入
8、許認可
9、改装
10、スタッフ募集
11、食材の調達
12、開店

このうち6、8、9、10、11が日本と異なるステップ。この中で特に時間がかかるのが「8、許認可」と「9、改装」である。現地で必要な許認可は主なもので「連邦納税番号」「ビジネス用名称の申請」「法人税ライセンス」「再販業者ライセンス」「レストラン開業許可」「建設許可」「ビジネスライセンス」など。

山本氏は「物件ごとにライセンスを取るための条件があって、それをクリアしていかないといけません。また、それを考えて施工もやっていくことになります。通常、施工をやりながら申請をしますが、役所の対応が遅かったり『これが足りない』などと言われたりします。それで予定とズレが生じるわけです。そういったことで物件選定から開店まで1年ぐらいかかってしまいます」と米国ならではの難しさを説明した。アルコール販売のライセンスにも時間がかかり、開店したのにアルコールが販売できないという例も少なくないという。

物件賃料の目安は、ロサンゼルスで「2~5ドル/SF(スクエアフィート=約0.09㎡)」、ニューヨークで「5.5~9ドル/SF」。例えば50㎡の店舗を借りる場合、ロサンゼルスでは約1,100~2,800ドル、ニューヨークでは約3,050~5,000ドルとなる。また、従業員を雇用する際の最低賃金にも注目しておきたい。サンフランシスコでは2018年7月から最低賃金が15ドル、ニューヨークは段階的に上がっており2019年は15ドルに達する見込みだ。

Photo by iStock.com/ablokhin

参入障壁となる「輸入規制」と「VISA取得」

開店してからも課題がある。「日本で有名なレストラン」ということで、その味を再現しようとしても食品輸入規制等が障害となり、簡単にはいかない。畜肉系の原料、豚肉や鶏肉などは容易に日本から持ち込めず、日本の味の再現は困難。また、輸入に頼る食材は食品原価を圧迫する。そのため、現地のレシピが必要になってくる。さらにアルコール類を含め食品の規制が州ごとに異なるので、現地法に詳しい弁護士の力が必要になる。

また、VISA(査証)の取得も重要。初めて米国に進出する場合にはE-VISA(投資家査証)が必要で、州や対象者の経歴にも左右されるが、一般的に30~50万米ドル(約3300万円~5500万円)の規模の投資が求められる。

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『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

ライター: 『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

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