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調布『Maruta』石松一樹シェフに聞く、コミュニティを意識した店づくり

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「店側はコミュニケーションの導線を作るだけ」と語る石松氏

料理はコースのみ。ベストパフォーマンスを提供するためのこだわり

提供する料理は、昼(土日祝のみ)と夜のコース料理のみ。コースに特化した理由にも最高のサービスを提供するためのこだわりがある。

「営業時間内で僕たちができることには限界があります。でも、コースにすると効率が良くなり、考えたり、仕込みに時間を費やしたりすることができます。そうして捻出できた時間を、ベストパフォーマンスを発揮するために使いたいんです」

土日祝のランチは前菜、メイン、デザートなどの5皿にドリンク。ディナーは前菜、魚介料理、肉料理、デザートなど9皿に、食後のお飲み物といった内容。例えばディナーのメニューの構成は、大きく3つのカテゴリーに分かれており、まず手にとれるサイズ感とお腹に負担のかからない量の6種類前後のスナックをシェアプレートで提供。その後、より良い環境で育てられた、生産者の顔が見える食材を使った料理や季節感のあるディッシュ、そして、その日の仕入れ状況によって内容が決まる薪で焼いたメインディッシュと続く。

大皿や取り皿には、職人のセンスと技が光る唐津焼を使用

昨今、気候変動が激しく旬の食材も年ごとに採れすぎたり、採れなかったりする。店では、近隣農家から食材を柔軟に仕入れ、余った分で作る保存食にも力を入れており、そうした保存食はスナックとして出している。シェアする際、客が遠慮したり、食べるペースが少し遅れたりしてもいいように、基本的には常温で、時間が経っても美味しさが変わらないものを提供しているという。

食材の動向が読めないのは魚介類も同じこと。そこは漁師に配慮し、臨機応変に対応している。メインの魚料理には、調布飛行場経由で届く伊豆七島の四島(伊豆大島、新島、神津、三宅)の新鮮な魚介を使っている。そして、メインの肉料理は、店内でもひときわ目を引く暖炉を使った薪火料理だ。

「料理人である自分としては、薪や炭の火は熱源として一番優秀だと思っています。薪の魅力は、お客様に火を見てもらいながら食事をしてもらえること。肉にちょっとした下処理をすることはありますが、シンプルにすっきりとした味わいになるようにつけ合わせやソースはできるだけ控えるようにしています。肉は大きな塊で使うので、じっくり丁寧に薪火で火入れをし、苦味や辛味、酸味を感じながら飽きずに召し上がれるように少しだけ味を変化させる薬味を添えて出しています」

薪で焼くことで肉につく木の香りも食欲をそそる要素の一つ

食材探しは、人探し。「ローカルファースト」がキーワード

料理に使う食材は、野菜については店の菜園で育てたものをはじめ、店の周辺エリアの三鷹や調布に集まる地元農家を中心に仕入れている。また、肉や魚は地方へ赴き、作り手本人と直接話をした上で仕入れ先を選ぶ。そのためパートナーは常に探し続けている。

仕入れの際には、仕入れ側と店側の立場の違いから意識のギャップが生まれることもある。そうしたときは隔たりが埋まるようにできるだけ話し合って、よりよい関係性が築ける方法を模索していく。

「漁師さんの大半は漁を生業とされています。僕らはいいモノが欲しいし、より丁寧に食材を扱ってほしいという気持ちがあります。その熱意のようなものを理解してくれる漁師さんは意外と多くありません。熱意や気持ちを共有できる方から仕入れる食材はほかと比べてやはり質が良いですし、こういったつながりが増えるように僕らも努力できればいいなと思っています」

美味しいのはもちろん、見た目にも美しい肉料理

これまでの経験から学んだ、自己評価の大切さ

『Maruta』にくる前、石松氏はフランスへ留学したり、海外のレストランの現場を経験したりしながら気づいたことがある。その人が何を考えてその料理を発想したのか、いわゆる“料理の発想のもと”こそ、料理を作るにあたって圧倒的に大事だ、と。また、石松氏が食へのこだわりや熱意をもつ料理人として、いつも心に留めていることがある。それが「自己評価の大切さ」だ。

「小さい頃から父親に言われてきた言葉が『分相応』です。言葉の意味を詳しく教えられたわけではありません。ただ私自身の認識として、何かやりたいことがあるのならば背伸びをするのではなく、自分が努力してそれができるようになってからやるという意味合いで捉えています」

分相応の自己評価が大切だと話す石松氏。それを踏まえて、彼はこう続ける。

「自分に見合う実力をつけるためには、結果に対して自身が納得できているのかどうかを考えることが一番大事です。今、いろいろな方に話題にしていただいている中で、そういう風に考えられていれば、周りから何を言われたとしても揺れることはないでしょう。自分はこう思う、という軸をはっきり持っていることは大切だと思います」

「料理の発想の基」への気づきから、料理が本当に好きになり考え方や姿勢も変わったと語る石松氏

目指す店づくりと『Maruta』のこれから

高い志を持ち日々現場に立ち続ける石松氏だが、今後の店づくりとこれからの飲食業界についてはどのように考えているのだろうか。

「ここ2、3年、サステナブルという言葉をよく聞くようになりました。それを打ち出しているお店も多い気がします。私たちも環境にいいことを毎日続けるのがとても大事だと思うので、細々とやっています。無理してお金をかけたり、頑張ってやったりするのではなく、単純に『環境にいいことって大事だよね』と思う頭を持つ。それは何よりも大切なんじゃないかと思います。一回やっただけで終わるのでは意味がありません。そういった姿勢に共感してもらえるのは嬉しいですよね」

今できることを無理せず、でも着実に取り組んでいくこと。その姿勢を貫きつつ、今後、具体的に目指したいのは、店が外部の評価機関から評価を得ることだと語る。

「5年先、10年先を考えたとき、まず思い浮かぶのが、近隣の方々と一緒に成長し合っていきたいということです。そして、一つでもいいので対外的な評価を得たいという気持ちもあります。評価されることによって、スタッフのモチベーションもアップするでしょう。また、取引先のお客さんに対しても『こういう店に卸したい』と思っていただけるようになるかもしれません。評価を目標にやっているわけではありませんが、評価を得られることでいろいろな広がりが店にもたらされるような気がしています」

持続可能な世界は、“当たり前”を大切にする日々の継続が生み出す結果なのかもしれない。そんなことに気づかせてくれるヒントが『Maruta』にはあふれている。

トマトやハーブなどがとれる庭にはコンポストがあり、食材を無駄にしない店の意識の高さが垣間見える

『Maruta』
住所/東京都調布市深大寺北町1−20-1
電話番号/042-444-3511
営業時間/ランチ12:00〜15:00(土日祝のみ/L.O.13:00)、ディナー(一部) ドアオープン18:00・料理スタート18:30、ディナー(二部) ドアオープン20:00・料理スタート20:30
席数/30
https://www.maruta.green

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河田早織

ライター: 河田早織

フリーライター・記者。人、物、コトと社会をつなぐ媒体として、インタビュー・取材レポート等の記事を執筆。主な執筆媒体は、日本の食、教育、医療、不動産など。