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M&Aで始める飲食店開業。創業者としての誇りを胸に自社の譲渡を決意

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株式会社ウィット 代表取締役・三宅宏通氏

流行に敏感な業界で浮き沈みがあり、開業資金も2000万円~3000万円は当たり前。そんな飲食業にイチから参入するのは、なかなか覚悟が必要なことだ。だがここ数年、飲食業界での新たな独立手法として、低リスクで手間も省ける「M&A」が注目されている。本連載はそんなM&Aの有効性について株式会社ウィット・代表取締役の三宅宏通氏に解説していただく。

転機となる市場の活性化と競合の乱立

「1店舗からのM&A ~M&Aで始める飲食店開業~」と題し、飲食業界のM&A事情について連載をさせていただきました。最終回となる今回は、この連載期間に私自身が自社の株式を譲渡した内容を中心にお伝えし、締めくくりたいと思います。

2007年11月、私が25歳のときに当社、ウィットを設立いたしました。ウィットは、飲食店経営者に必要とされるサービスを増やしていくことを目的に、飲食業界専門のM&A仲介サービス、人材紹介サービスを行ってきました。M&A仲介サービスは私が担当し、人材紹介サービスはリクルート出身で取締役の吉田が事業責任者として、それぞれの部門が補完をしながら少しずつ成長してきました。しかしその多くの年月で安定的にウィットの収支を支えていたのは、人材紹介サービスでした。

おかげさまで当社はこれまで増収増益できており、小さい会社ながらに順調に成長している実感はありました。そのような中、国内全体でのM&Aビジネスにおける需要の高まりとともに、飲食業界においてもM&Aというスキームの活用が広く浸透してきました。これまで少しずつ積み上げてきた「飲食業界専門のM&A仲介サービス」が加速して伸びていく実感を私自身感じていました。

一方、今回親会社となった株式会社シンクロ・フードは、2017年に東証一部へ上場した飲食業界向けのサービスを提供するIT企業です。「飲食店.COM」といったサイトを軸に、求人や物件、仕入先や内装会社など、飲食店経営に必要な情報をマッチングするサービスを展開しています。そして新たな事業展開の一つがM&A仲介サービスであり、弊社と経営統合する話に発展していったのです。

画像素材:PIXTA

成長速度を上げるために大手傘下に入るという選択

私自身がM&Aアドバイザーとして、数多くの飲食店経営者の決断を見てきました。売主側の譲渡理由の多くが、「将来の不透明感」や「事業の選択と集中」などでしょうか。一方、買主側の目的の多くは「事業拡大」や「新規事業の構築」でありました。

私の場合は売主側になりますが、「成長速度を上げるため」が譲渡理由になります。「株主ではなくなる企業の成長を加速させる意味があるのか?」という声もあるかもしれませんが、やはり創業者として自身の設立した会社が成長し続けることには、大きな喜びと誇りが持てます。また株主ではなくなりますが、引き続きウィットの代表取締役としてシンクロ・フードの顧客データ、コンテンツを活用できることは、大きな魅力でした。

M&Aで譲渡をすることにはまだまだ後ろ向きな印象も強いかもしれませんが、実はこのように自社単独では成し得ない成長軌道を達成するために、大手企業との統合を目指すM&Aがとても増えています。そして私自身、それを体現することになりました。

転機に備えることがスムーズな成約以上の成果を生む

実は元々、2022年を目処にイグジットする方向で考えておりました。本連載の第3回に記載した通り、M&A案件が進展するプロセスには非常に多くの資料やデータを取りまとめ、提出しなければなりません。また、買手側は判断材料の一つとして、それらがスムーズに提出されるかどうかも案件の信憑性における重要なポイントとして捉えています。

2022年を目処にしながらも、部門別の損益はもちろん、各取引における集計データも数年に渡って取りまとめていたことは、急遽経営統合の話が持ち上がった当社の場合でも、スムーズに進行できた要因の一つだったと思います。

出会いのきっかけは、定期的に共同開催していたM&Aセミナーでした。これは後日談ですが、2017年の夏頃から定期的に共同セミナーを実施する段階で、シンクロ・フードとしてウィットに対するM&Aの機会を伺っていたようです。そしてM&Aのセミナーの中で、イグジットを通過点の一つとして明確に定めておく重要性をお話しする中で、私自身の「2022年を一つのイメージとしてもっている」話をしてしまった(!?)ことが急転直下に本件につながるわけです。

いつ、何がきっかけでご縁が生まれるかは本当にわからないものだと自分ごとながらに強く感じました。そして一つ言えることは、そういった機会ロスをしないためにも常に必要なデータや資料は整理し、把握しておくことが大事です。

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『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

ライター: 『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

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