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“最強”レモンサワーで人気の『素揚げや』、「最強」の経営判断でコロナ危機を回避

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『素揚げや』の代表・宮崎明氏。4月6日、宝酒造から自身が監修した缶酎ハイが発売された

「(元祖)最強レモンサワー」が人気の『素揚げや』(東京都江戸川区、運営D&F株式会社)が、新型コロナウイルス禍による危機を大胆な経営判断で切り抜けた。経験から学んだ知識と磨いた判断力を生かした宮崎明代表の目は今、業界のあり方と「コロナ後」に向けられている。

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本店はテイクアウトのみに切り替え

『素揚げや』は小岩本店と小岩別館の2店舗が200メートルほど離れた位置で営業している。4月15日以後、本店は店自慢の素揚げに唐揚げ、メンチ・コロッケ、串カツ等のテイクアウトを平日15時から19時(土日は13時から17時)まで行い、小岩別館は正午から20時までの通常営業とすみ分けを行なっている。

取材に訪れた5月中旬、本店では取材の間もひっきりなしに客が訪れ、商品を買い求めていく。店先でアルバイトの女性から商品を受け取った後に「再開を楽しみに待ってますから。頑張ってください」と店内で揚げ物を作る宮崎代表に声をかけていく常連客もいる。

店頭ではテイクアウト販売を行っている

3月30日を機に状況が一変

客には笑顔を絶やさない宮崎代表だが、新型コロナウイルスの影響を聞くと表情は曇る。「3月30日を境にガラリと変わりました。この日、志村けんさんが亡くなったと報道されると入っていた予約は全てキャンセルされ、それ以後、4月10日過ぎまで、お客さんはほぼゼロになりました。全く別の世界になりました」(以下、コメントは同代表)

3月は前年に比べ売上増だったが、4月上旬は前年比90%減。4月15日からテイクアウトに切り替え、何とか4月分を前年比70%減にまで戻した。通常であれば7割減は大打撃であるが、『素揚げや』の場合はそれでもラッキーであったと言える事情がある。

店舗クローズを躊躇し3000万円の負債

以前、『素揚げや』は現在の2店舗に加え、祖師ヶ谷大蔵店(東京都世田谷区)を加えた3店舗体制であった。ところが小岩別館の店長が家庭の事情で2020年1月いっぱいで退職することになり、店長を務められる人が1人足りなくなってしまったのである。

退職の意向を伝えられた2019年秋の時点で、2月2日をもって祖師ヶ谷大蔵店の閉店を決定。

「祖師ヶ谷大蔵店は年間で30万円程度の赤字でした。しかし、2店舗より3店舗あった方が見栄えはいいし、30万円を店全体の宣伝費と考えれば閉める必要はありません。それでも閉店したのは人です。この仕事は人ありきで、箱(店舗)ありきではありません。ウチにある“人”と“お金”を小岩の2店舗に投入した方がいいと思いました」

以前、小岩別館の店長候補を60~70万円の経費をかけて募集したが集まらなかった。そこで今回も経費をかけて募集しても人が集まらない可能性が高いという判断も働いている。

飲食店にとって閉店は印象が悪く、残る店舗への悪影響が考えられる。それでも素早く撤退を決めたのは、過去の苦い経験から学んだ部分が大きい。2011年6月、宮崎代表は東京都渋谷区神泉に懐石料理店を開いたが、同年12月には資金がショート。それでも2013年3月まで営業を続けた。

「(開店から)半年でスパッとやめておけばよかったと思います。それができなかったのは『恥ずかしい』という思いが強かったんですね。最初の半年は何とか回っていました。そこで辞めておけば、(開店資金の一部の)2000万円の借金で済んでいました。しかし、そこで辞めなかったので、さらに3000万円借金が増えてしまいました」

その経験から「見通しも立たないのに続けるのは傷口を広げるだけ。経営者として撤退することも大事。先を見据えて傷が浅いうちに撤退することも必要な場合もある」ことを学んだ。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/