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ウラなんば『焼とんyaたゆたゆ』、注力してきた「人材育成」がコロナ禍の強みに

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『焼とんyaたゆたゆ』の名物である豚モツの串焼きは、珍しい部位も取り揃えている。「おまかせ焼とん5串」(860円)

思いを形に。会社の共通言語をつくるところからスタート

実際に、同社の人材育成とはどのようなものなのだろうか。川端さんとともにその仕組みを整えてきたのが、山下成巳さんだ。食品メーカーに勤めた経験から人材育成に携わりたいと考えていた山下さんが入社したのは、同社が福利厚生などの制度を充実させようとしていた時期だった。

「スタッフに関する制度って、外部から入ってきた人間の方が会社に染まっていないし、言いやすい。だから、研修などの人材育成制度も含めて、コンサルティングとして自分に任せてほしいと川端さんに直談判したんです」(山下さん)

その提案が通り、山下さんは同社の子会社として株式会社TOHGE(トウゲ)を立ち上げて人事コンサルティング事業をスタートさせた。

まず手掛けたのが、企業理念と行動指針をつくること。川端さんの考えを汲み取りながら「喜ばせる!それを歓ぶ!それが志事<シゴト>」という企業理念を掲げて、それまで曖昧だった人事評価を作り上げた。

「企業理念に基づき、人を楽しませるための一般的な接客から、スタッフ間での『許すという心の豊かさ』といった精神論まで、120個の評価項目を作りました。会社と働いている人の共通言語をつくり、これらをお互いにチェックすることで、みんなが同じ目標に向かって動きやすい環境を整えてきました」(山下さん)

これらのチェック項目は評価と言うより、コミュニケーションツールという位置付けなのだと山下さんは話す。スタッフ同士で考えの違いがあった時に、共通言語があれば意見を言い合いやすく、見通しの良い仲間感を生み出すことに繋がっているのだ。こうした人事評価を導入したその年は、離職者が出なかったという。

『焼とんyaたゆたゆ』各店には、80~100種類の焼酎が揃う。酒蔵見学をした学生スタッフが、おすすめの焼酎を黒板に書き出して接客することもあったという

土台ができていたことが、コロナ禍で生きている

その後、山下さんは週1回のミーティングや月2回の研修で、スタッフに向けて同社の歴史や独立した人の紹介をしたり、ビジネスマナーやチームワークの勉強会を行ってきた。社員だけでなく、アルバイトの学生スタッフにも酒蔵見学などの機会を設け、飲食業の素晴らしさを伝えている。

研修は参加を強制するものではなく、自主的な参加を募ることで個人の成長を促してきた。こうした取り組みの中で、スタッフの店への愛着や誇りが生まれるとともに、お互いに意見を言いやすい環境を築き上げた。そして、その土台がコロナ禍で生きているという。

「コロナ禍で、各店長は自分たちの考えや困っていることを相談してくれるようになったと思います。それはやっぱり、スタッフがすごく自分のお店が好きで、なかなか集客に繋がらない状況を不安に思っているからなんですよね」(山下さん)

風通しが良く意見を言いやすい土台ができていたことで、「じゃあ一緒に考えよう」という姿勢ができ、社員一丸となって同じ方向に進むことができるのだ。

これから独立する人へ。経営者に必要なものとは?

最後に、これから独立する人に向けて、飲食店経営者には何が必要とされるかを川端さんに聞いてみた。

「緊急事態宣言が出されていたときは、判断の連続でした。状況が刻一刻と変わり、自分が朝言ったことをその日の晩には覆すこともあるくらい迷いましたね。ほんまに、どっかに判断の背中を押してくれる人おれへんかなって思うくらい。そういう状況であっても、理念をしっかりと持っていれば、理念が背中を押してくれるんです」(川端さん)

川端さんはそう言いながら、これまでの判断を振り返った。例えば、テイクアウトをするかしないか。「焼とんは絶対にできたてを食べてほしい」という思いはあったが、最終的にはテイクアウトメニューを提供することを決断した。

「うちの理念は『喜ばせる!それを歓ぶ!それが志事<シゴト>』。どんな状況でも相手を喜ばせる仕事がしたいから、テイクアウトを始めることに決めました。理念を持っていれば、それが軸となって緊急時でも判断できる。だから、これから独立したい人に伝えるなら、理念を持つこと。それが大事やと思います」(川端さん)

理念をしっかりと掲げ、曲げない。そうすることが人材育成にも経営判断にも生きるのだと、川端さんは力強く語ってくれた。

『焼とんyaたゆたゆ 難波千日前』
住所/大阪市中央区千日前2-6-10
電話番号/06-6643-8108
営業時間/16:00~24:00(L.O.23:30)、金・土・祝前日17:00~翌3:00(L.O.翌2:30)
定休日/なし

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松尾友喜

ライター: 松尾友喜

和歌山の地元情報誌の編集部でパンの特集や連載、商品開発を手掛けるなど、“パン好き編集者”として活動。2018年に独立し、フリーランスのライター・編集者として、パンをはじめ食関連、旅と街歩き、インタビューなど幅広い分野で取材・執筆している。