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「FOODIT TOKYO 2020」開催。「飲食DX」でウィズコロナ時代を生き抜く

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株式会社CRISP代表取締役社長・宮野浩史氏

「サブスクリプション」の本当に威力

DXを実現することで、お客様とのコミュニケーションがより活発になったケースはほかにもある。株式会社favy代表取締役社長・高梨巧氏のトークセッションでは、サブスクリプションシステム(以下、サブスク)を導入することで飲食店と客の距離が近づいたという話も。

飲食店は顧客を管理できていないところが多いが、サブスクを利用すれば客のデータを把握できるほか、来店頻度が増え、客とのコミュニケーションが生まれる。株式会社favyが運営するサブスク型コーヒーショップ『coffee mafia(コーヒー・マフィア)』では、月額3,000円から定額でコーヒーを楽しめる。毎日飲む人も多いコーヒーという分野だけに、客の来店回数は月平均22回、最大で60回ほど来店する客もいるそうだ。

「毎月22回も来店してもらえれば、下手な同僚より会う頻度が高いですよね。そうすると、お客様とスタッフの全員が顔見知りになって、より関係が近くなる。お客様に対して気軽に『明日も来ます?』なんて聞けたりするし、自然にいいコミュニケーションが築けます」

サブスクは客が来れば来るほど原価が上がるという欠点があるが、それに関しても、サブスクによる意外なメリットにより解消されたという。

「やってみてわかったのは、来店頻度が高いお客様は“ついで買い”も増えるということ。結局コーヒーはタダでもらえるような感覚で、食べ物をついでに買うクロスセルや、利用プランをアップグレードするアップセルで収益が成り立っています」

株式会社favyの代表取締役社長・高梨巧氏

飲食店をオンライン化。SNSで評価される『Mr. CHEESECAKE』

ここ最近EC界隈で話題となっているのが、株式会社Mr. CHEESECAKE代表取締役・田村浩二氏が運営するチーズケーキのブランド『Mr. CHEESECAKE』。完全受注生産でチーズケーキのオンライン販売を行っており、「飲食店をオンライン化」することに成功している。世界最短でミシュランガイドの星付き評価を得た『TIRPSE(ティルプス)』にてシェフを務めるなど、料理人として評価も高い田村氏があえてオンラインでチーズケーキの販売を行うようになった理由には、オンラインの新たな価値の発見があった。

田村氏はシェフとしてトップを目指すために名店で修行し、ゴ・エ・ミヨ・ジャポン2018の「期待の若手シェフ賞」など、数々の賞を受賞。しかし、シェフとして評価され始めると、気軽に食事を楽しんでくれる客より、同業者や食通たちが田村氏のもとに集まるようになった。

「もっと純粋に、一般の方に僕の料理を楽しんでもらいたかった。そこで、誰が食べても美味しくて幸せになれるようなものを、誰よりも美味しく作りたいと思うようになり、自分の好きな食べ物であるチーズケーキ作りを始めました」

最初はインスタグラムの「ストーリー」にチーズケーキの情報をアップし、客とDMでやりとりしながら手売りをしていたという。すると、レストランでは生まれなかった客とのコミュニケーションが生まれるようになったそうだ。

株式会社Mr. CHEESECAKE代表取締役・田村浩二氏(下)。株式会社キッチハイクの川上真生子氏(右上)が聞き手として登壇した

「レストランでは僕の料理について質問してくれたり、僕と深く話そうとしてくれるお客様は1日に数人いればいい方でした。でも、オンラインで販売していると、SNSで『ここが美味しかった』とか、『ほかのチーズケーキとこういうところが違っていい』とか、具体的な感想が見えるようになったんです。もちろんシビアな意見もありましたが、正しくお客様に評価されている感じがして嬉しかった。その言葉に対して一生懸命作りたいという思いが生まれました」

純粋に自分の料理を楽しんでくれる客とのつながりが、オンラインでできるようになった。そしてこのオンラインのコミュニケーションが、料理人としての大きなモチベーションになったのだという。

「もちろんレストランはすごく好きですが、すべての料理人が独立してレストランを出さなくてもいいし、今の時代に合ったコミュニケーションや美味しいものの届け方があると思います。レストランに属さず個人で働く、あるいはオンラインで商品を販売するというのはレールから外れるやり方だったけど、それでも良かった。賞のような第三者からもらう評価よりも、SNSで直接お客様にもらえる感想のほうが嬉しいんです」

これまで飲食業界において、テクノロジーの導入に関する話題は「人手不足の解決」や「効率化」といった文脈で語られることが多かった。しかし今回のトークセッションでは、DXの実現が飲食店経営の可能性を広げるだけでなく、客を知り、より良いコミュニケーションを取る上でも重要な手段になることがわかった。コロナ禍で飲食店の在り方が変わりつつある今こそ経営を見直し、自店舗なりのテクノロジーとの付き合い方を見つけてほしい。

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竹野愛理

ライター: 竹野愛理

食と文学を愛するライター。飲食店取材、食に関するコラム、書評を執筆のほか、食関連のメディアや書籍にて編集者としても従事。趣味は読書と散歩。本を片手に旅行したり食べ歩きをしたりすることが好き。