有名人も通う恵比寿のレトロ喫茶『珈琲家族』。居心地満点の秘密とは?

飲み物にプラス100円でついてくるオープンサンド
母娘の愛情がたっぷり詰まったフードメニュー
店のオススメはコーヒーばかりではない。時間に関係なく飲み物にプラス100円支払えばオープンサンド(タマゴ)かトースト(ジャム・バター)、そしてミニサラダがついてくる。創業当初は無料で提供していたというが、その後80円、100円と“良心的”な値上げで現在に至っているのも人気の秘密なのかもしれない。
その他フードメニューは京子さんのアドバイスも取り入れ、喫茶店で味わえるのが嬉しいほどの充実ぶり。「ビーフシチュー」や「ボルシチ」(各650円)、土曜・祝日限定で「家族のパンケーキ(600円)」も注文でき、フード目当てに訪れる常連客も多いという。
また、自家製の鶏ハムを使った「鶏ミニサンド(450円)」は、酢を使用しているので疲労回復や美肌効果があり、「家族の白玉(550円)」には黒豆、黒ごま、きな粉が入っていて栄養満点だという。忙しい現代人の健康にも気を使った愛情たっぷりのメニューが揃う。

愛情たっぷりのメニューが揃う
俳句や占いが楽しめるミニカルチャースクールが人気
長年、常連客に親しまれて営業を続けてきた『珈琲家族』だが、昨年はイレギュラー続きの1年だった。何といっても新型コロナウイルスで4月末から1か月間の休業を余儀なくされ、“変わらぬ日常”が崩れてしまったからだ。
「今まで長期で休んだことがなかったから、1か月間、精神状態をどうやって維持すればいいのか、憂鬱な日々でしたね。何もすることがなくて家で体操をしたり近所を散歩したり……。1か月後には『こんな生活も悪くないのかな』と思ったりもしましたが(笑)」
売上は大きく落ち込んだというが、コロナ禍で苦しくてもマスターが休養しても気丈に店を続けているのは、「今まで口では言い表せないほど周りのお客さんに助けていただいたから」と話す田中さん。日ごろの感謝と恩返しの気持ちの表れだ。

娘の京子さんと二人三脚で店を切り盛り
『珈琲家族』の常連客はビジネスマンのほか、朝や昼間は近所に住む主婦や医師、学生などじつに様々。そんな地元の人たちの繋がりも深く、創業当時から店内で俳句や絵画、巻き手紙などの“ミニカルチャースクール”を催してきたという。田中さんもコーヒーを淹れながら自ら俳句を習うなど、趣味の幅が広がったという。
現在は月に2回、手相・タロット・九星気学で恋愛運や健康運、仕事運などを占ってもらえる日がある。占い師はやはり地元常連客の紹介で依頼し、口コミで知った人たちからの問い合わせも増えているという。
「今は会社でもプライベートでもいろいろな悩みを抱えている人が多いので、ちょっとでもいいからお客さんが喫茶店で気分転換をしてホッコリしてもらえたらいいなと。占いもお客さんが笑顔で元気になっていただけることをモットーに続けています」

マスク姿でも優しい笑顔が伝わってくる
「たばこが吸える店を残したい」マスターの思い
くつろぎの空間を提供するという意味では、昨年はもうひとつ大きな決断を迫られた。健康増進法の改正や東京都の受動喫煙防止条例の影響で、店内喫煙が原則認められなくなったからだ。これまで“たばこが吸える店”として多くの愛煙家からも親しまれた『珈琲家族』だけに、全面禁煙にしてしまえばコロナ禍にも増して売上損失が避けられない。
「マスターも喫煙者で昔から“たばこは文化だ”と言っていました。喫煙場所の規制が進んでいることは知っていましたが、コーヒーを飲みながら一服するのを楽しみにいらっしゃるお客さんも多い中、引き続きたばこが吸えるお店も必要なんじゃないかと思いました」
そこで店が出した結論が「喫煙可能店」の申請だ。客席面積が100平方メートル以下で資本金が5000万円以下の小規模店、さらに東京都独自の条例で定められている従業員がいない(家族経営は例外)などの条件に該当すれば、経過措置的に喫煙が認められる。20歳以下の来店はできなくなるが、これで『珈琲家族』は今まで通りの営業が可能になった。
だからといって、受動喫煙対策を怠っているわけでは決してない。地下にある店舗ゆえ、たばこの煙がこもりがちなイメージがあるが、『珈琲家族』は入店すると不思議なほどたばこ臭がしない。お笑いコンビ・千鳥で大の愛煙家として知られる大悟さんも、テレビ番組の収録で訪れた際、店内の空気がキレイなことに驚いていたという。

『珈琲家族』は喫煙可能店として営業している
「コロナ禍で入口のドアを開けて換気していることもありますが、たばこを吸わないお客さんもいるので、これまであった2台の空気清浄機に加えて、昨年は50畳以上の広さにも対応できる大型の業務用清浄機を設置しました」(京子さん)
少しでも来店客に快適にくつろいで欲しいという願いは、田中さん一家が喫茶店をオープンした日から変わらず持ち続けているモットー。そのための努力は惜しまない。
「コロナで飲食店は皆さん大変ですし、私も自分の年齢や体力を考えると喫茶店をいつまで続けられるか先が見えない状況です。でも、たくさんのお客さんに支えられて今までやってくることができたので、これからも1人でも多くの皆さんに憩いの場を提供できるよう、1日1日を大切に生きなきゃと思っています」
そう言って田中さんは、またコポコポと抽出したサイフォンから1杯のコーヒーを丁寧に注ぎ入れた。

入口には「喫煙可」の文字
『珈琲家族』
住所/東京都渋谷区恵比寿南1-2-8 雨宮ビルB1F
電話番号/03-3710-8124
営業時間/7:00~19:00
定休日/日曜日
席数/23
撮影/内海裕之
