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ジビエ料理の旗手、『ラチュレ』室田拓人シェフが考える「サステナブル」な精神とは

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シェフであり、ハンターでもある室田拓人さん

「今の季節はランチもディナーもジビエのフルコース。ほぼすべての料理に何かしらジビエを使っています」。そう語るのは青山のフレンチ『LATURE(ラチュレ)』の室田拓人シェフ。確かにこの日のランチは1品目からジビエ。続く2品目も3品目も4品目もメインもジビエだった。

食後の飲み物とともに供されたフィナンシェには、バターとイノシシのラードを併用。まさにジビエ尽くし。そうしたサステナブルな食を提供する取り組みが、『ミシュランガイド東京2021』で「グリーンスター」として評価された。なぜ、これほどジビエにこだわるのか。また、コロナ禍でスタートさせた、ジビエを使った製品開発についても話を伺った。

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10代で味わったブータンノワールの衝撃

室田シェフといえば、吉野建シェフの『レストラン タテルヨシノ』で修業したことでも知られている。数多フレンチがある中で、なぜ同店の門を叩いたのか。

「吉野シェフはフランス料理の重鎮であり、ジビエ料理でも有名だったことから『タテルヨシノ』で修業したいと考えました」

ジビエへの熱い思いは、10代のときに食べたブータンノワールの影響だった。10代でブータンノワールを口にする日本人はけっして多くないはずだが、その味に衝撃を受け、フレンチの道へ進んだ。この日、1品目に登場したのが、まさにブータンノワールだった。といっても10代の室田青年が出合ったものとは異次元の、進化を遂げたブータンノワールだった。

「エゾジカの血のブータンノワールを、エゾジカの血で作ったマカロンではさみました」

1品目に出てきたエゾジカの血のブータンノワールとその血で作ったマカロン

2品目はエゾジカの自家製サラミと松の実で作ったケーク・サレ。ブータンノワールやサラミなら馴染みがあるが、初体験のシャルキュトリーが供された。鹿のすね肉を燻した鹿節だ。その鹿節を、鰹節のように薄く削ったものを3品目の寒鯉のマリネに添えてあった。

4品目は、シカ、クマ、イノシシ、アナグマの肉を混ぜたものにフォアグラを詰め、パイ生地で包んで焼き上げたパテ・アン・クルート。5品目はマトウダイのポワレ。魚料理にもジビエを使う日があるという。6品目はエゾジカのモモ肉のロースト。厨房ではスタッフがエゾジカを黙々と掃除していた。筋や膜を取り除き、バットに入れていく。料理として出せない肉はミンチにしたり、コンソメを作るという。エゾジカのサラミもパテ・アン・クルートに使った肉も、この掃除で出た肉を使ったものなのかもしれない。

鹿、熊、イノシシ、アナグマの肉とフォアグラで作ったパテ・アン・クルート

美味しいジビエ料理を提供するためにハンターになる

室田シェフも、吉野シェフの下で働いていたとき、シビエの下処理を担当していた時期がある。そのとき気づいたことがあるという。

「家畜の牛や豚であれば、同じ日数で同じ餌を与えているのでどれもほぼ同じ味です。ところが、ひとつとして同じものがないのがジビエ。脂がのって美味しいジビエもあれば、臭いカモやシカもありました」

なぜ臭いのか。棲んでいた場所による餌の違いも大きいが、もう一つ要因がある。仕留めた後、どのように処理したのか。それが個体差が生じる最大の理由だ。まだ温かいうちに血や腸を抜くなどの処理をしなければすぐに臭くなるのが、ジビエの特徴でもある。

「美味しいジビエをお客様に食べていただくには、自分がハンターになるしかないと思いました。でも、どうやって狩猟免許を取るのかがわからず、横内さんに相談しました」

室田シェフがいう「横内さん」とは、国産の和牛やジビエなどを扱う「有限会社横内商店」の社長で、クレー射撃の元オリンピック強化選手だった横内誠さんである。横内さん自身、相棒の狩猟犬とともにキジやヤマドリやヤマシギなどを狩猟するハンター。横内さんのアドバイスもあり、室田シェフは2009年に狩猟免許を取得する。ほぼ同時に『deco』のシェフに就任。2016年に『LATURE』をオープン。わずか1年3か月で『ミシュランガイド東京2018』で一つ星を獲得。『ミシュランガイド東京2021』では新しく設けられた、サステナブルな取り組みを行なう店を評価する「グリーンスター」としても紹介された。

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中島茂信

ライター: 中島茂信

CM制作会社を経てライターに。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』『101本の万年筆』『瞳さんと』『一流シェフの味を10分で作る!男の料理』『自家菜園のあるレストラン』。『笠原将弘のおやつまみ』の企画編集を担当。「dancyu web」や「ヒトサラ」、「macaroni」などで執筆中。