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ジビエ料理の旗手、『ラチュレ』室田拓人シェフが考える「サステナブル」な精神とは

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ハンター室田さんは房総で狩猟する機会が多いという 画像提供/ラチュレ

フランス料理にはサステナブルな精神が継承されている

室田シェフが屋号に選んだ『LATURE』は、ナチュラルとラルム(フランス語で雫〈しずく〉の意)を組み合わせた造語で、「自然の雫」という意味。『deco』時代を通じて室田シェフの胸中にあるのは、自然への敬意と感謝をいだきながら、自然の恵みをフランス料理で表現すること。その中心にあるのが、ジビエだ。

「フランス料理にとってジビエは切り離せない食材です。美味しいし、自分でも料理したいと思い、吉野シェフの門を叩いたし、ハンターになりました。撃った直後の動物は温かいんです。そのぬくもりこそが命の重みだと思っています」

近年、様々な要因で生態系が破壊されつつある。その結果、餌を求めて農産物を食べた動物や、町中へ出没した動物が殺傷されるも、その大半が廃棄されている。「他の食材と比較すると廃棄率が圧倒的に高い」と室田シェフは指摘する。ジビエを美味しく食べることが、サステナブルにつながると室田シェフは考えているのだ。

「骨で出汁を引く、豚の血と脂肪でブータンノワールを作る、すじ肉をミンチにする……。食材を余すことなく使い尽くすのが、フランス料理の精神。それを『タテルヨシノ』での修業時代、先輩から叩き込まれました。それを今、うちのスタッフが受け継いでくれています」

しかし、余すことなく使い尽くす食材はジビエに限った話でもなければ、フランス料理だけに宿る精神でもないと室田シェフは言い切る。

「イタリアにはラグーがあります。北欧料理にもスペイン料理にも同じような料理があります。西洋料理全般に、サステナブルの精神が継承されてきました。時代が西洋料理に追いついてきたといえるのではないでしょうか」

エゾジカ肉を掃除中のスタッフ

コロナ禍で、ジビエの缶詰やレトルト食品の開発に着手

ラチュレだけがサステナブルに特化しているわけではないものの、この店に美味しいジビエが集まっていることは確かだと室田シェフは胸を張る。その理由は、シェフ自身がハンターだということも大きく関与している。「横内商店」の横内さんをはじめとする、美味しいジビエを提供したいと望む室田シェフの思いを理解するハンターが、きちんと処理した肉を送ってくれるからだ。

「シカなどは食肉施設を通さないと仕入れることができません。うちがジビエ料理の店として認知されていることもあり、いい肉を送っていただいていることに感謝しています」

そんな中、二度目の緊急事態宣言が発令された。

「サステナブルな精神とコロナ対策は真逆だ」と室田シェフは力説する。予約がキャンセルになり、用意していた食材が不要になるケースも多いからだ。

「営業時間が短縮になったからといってシカやクマの頭数が減るわけではありません。食肉施設の冷凍庫にジビエの在庫がいまも増え続けています。それをなんとかしなければなりません」

メインのエゾジカのモモ肉のロースト

最初の緊急事態宣言では準備がまったくできず、じくじたる思いがつのった。「二度目もある」と想定し、開発を進めてきた計画がある。

「食肉施設には、メインの料理には使えないシカとイノシシの肉が山積みになっています。食品メーカーと一緒に、それらを使った缶詰、そしてレトルトのハンバーグとカレーの商品化を進めてきました」

『ラチュレ』で使えるジビエの量は1日に5キロ程度。片や、食品メーカーであれば、1日に数トンのジビエを加工できる。ジビエの缶詰やレトルト食品を製品化できれば、ジビエ料理が日本に浸透するきっかけになるとハンターでもある室田シェフは考えているのだ。

「ジビエの缶詰は春頃発売予定です。経営者の観点でいえば、製品開発で収入を得ることができれば、コロナ禍でも7名のスタッフを守ることができます」

コロナ禍でレストラン以外のことにも着手すべきだと考え、食品メーカーとタッグを組むことにした。結果、二兎を追う者は一兎をも得ずどころか、一石二鳥になりつつあるようだ。

『LATURE(ラチュレ)』
住所/東京都渋谷区渋谷2-2-2 青山ルカビルB1
電話番号/03-6450-5297
営業時間/11:30〜15:00(L.O.13:00)、17:30〜L.O.20:00 ※今後、状況次第で変更になる可能性もあり
定休日/不定休
席数/18

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中島茂信

ライター: 中島茂信

CM制作会社を経てライターに。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』『101本の万年筆』『瞳さんと』『一流シェフの味を10分で作る!男の料理』『自家菜園のあるレストラン』。『笠原将弘のおやつまみ』の企画編集を担当。「dancyu web」や「ヒトサラ」、「macaroni」などで執筆中。