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『été』庄司夏子さん、料理の世界で結果を出すための「視点」と「行動」

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『été』の甘鯛のひと皿(提供;庄司夏子さん)

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若いことはハンデであり強み

庄司さんは2020年、30歳でアジアのペストリーシェフ賞を受賞した。庄司さんがアワードを重視する姿勢には理由があった。

「『なぜそんなにアワードを大事にするのか』と聞かれますが、大きな賞をとったからこそ来る仕事があり、発言にも説得力が増すと思っています。若くて女性であることはハンデでも、いったん乗り越えてしまえば、それはそのまま強みとなります。若いことはわかりやすく、若いからこそピックアップされやすい。ここまで来るのは相当にハードでしたが、それを乗り越えたことで、24歳でお店が始められて、30歳でアジアペストリーシェフ賞を取れたと思っています。自分のこういう姿を見せることで、次に続く人が夢を持てて、起業におけるハードルが下がることを期待しています。

料理は技術にお金がともなっていないと思います。アーティストの作品は何億という値段がつきますが、料理はせいぜい数千円、数万円です。また、コスパという価値観をやめたいです。コストパフォーマンスという言葉には、ひと皿のディテールに私たちがかけている労力が入っていません。かける労力に比べて価格はとても安いと思います。

私がアーティストとのコラボをするのは、アーティストの作品と料理が同じ労力をかけて作られていることを見てほしいからです。ケーキや料理は食べればなくなってしまうけど、心血を注いでゲストの心を動かすという点では、芸術品を作っていると思っています。『エテ』のケーキは高いといわれることがあって、それを理解してもらうためにやっています。価格だけを一面的に見るのでなく、その価格を価値として理解してくれるゲストと付き合っていきたい」

自分にしかできないことを探すために

自分にしかできないことを探していくためにはどんなことが必要なのかを聞いた。ポイントは2つ。基礎の徹底と、物事を俯瞰で見られる力だ。

「私は高校のときからフレンチのことをずっと考え、そのなかでも自分にしかできないものは何なのかをずっと考えてきました。唯一無二を生み出す、ゼロから1を生み出すには、まず自分の中の基礎を作ること。オリジナルはいきなり作ることはできません。基礎はできて当たり前の世界です。新しいものは基礎を極めた先にあるもの。ベースをしっかり作った先に、新しいものを作るのです。

もう一つは自分で自分を分析できる、物事を俯瞰で見る力を身につけること。俯瞰で見られるようになれればミスも打破できますし、新しいものを生み出すときにも役立ちます。私には、自分を俯瞰で見る存在として、自分の中に“もう一人の自分”がいます。たとえばなぜミスをしたのかとか、自分なりのオリジナリティが出ているかとか。迷ったら“もう一人の自分”に相談します。アイデアの独創性について相談できる、対話できるもう一人の自分は、成功度合いをパーセンテージで答えます」

自分の得意分野を俯瞰で見ることができ、見たことのない作品を生んだからこそ認められたのだと庄司さんは語る。すでに、次の目標も定まっている。

「シェフは、人の心を動かせなければ残れない世界です。私も何だってできるわけではない、不得意な分野もありますが、自分の得意な分野を生かして、私のケーキが私のだとわかるものを作ることができました。今後は、ケーキでできたそれを、料理でやりたい。女性シェフの世界でそれをやれたらと思っています。次は5年後までに『世界の最優秀女性シェフ賞(World’s best female chef)』を取りたい。まだ誰も見たことのない世界を生み出せるか。無から有を生み出せるかが試されているんだと思います」

『エテ』エントランス

(追記)このインタビュー終了後、2月16日「アジアのベストレストラン50」の2022年版「アジアの最優秀女性シェフ賞(Asia’s best female chef)」に庄司さんが選ばれたと発表があった。アジアの全レストランから1年で一人しか選ばれない本賞、日本人では庄司さんが初の受賞です。おめでとうございます。

『Fleursd’été(フルールドエテ)』
所在地/東京都 ※予約確定時にメールで連絡
https://omakase.in/ja/r/et765809
https://www.instagram.com/ete.restaurant/

庄司夏子(しょうじ・なつこ)
1989年、東京都生まれ。高校調理科を卒業後、『ル・ジュー・ドゥ・ラシエット』、『フロリレージュ』を経て22歳で独立。フルーツをあしらったケーキ『フルール・ド・エテ』が話題になる。2015年、一日一組の招待制レストラン『été(エテ)』をオープン。2020年「アジアのベスト・レストラン50」においてAsia’s best pastry chefに選ばれる。同年、ケーキを渡すためのスペース『フルール ド エテ(Fleurs d’ été)』を都内にオープン。2022年、「アジアのベスト・レストラン50」においてAsia’s best famale chefに選ばれる。

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うずら

ライター: うずら

レストランジャーナリスト。出版社勤務のかたわらアジアやヨーロッパなど海外のレストランを訪問。ブログ「モダスパ+plus」ではそのときの報告や「ミシュラン」「ゴ・エ・ミヨ」などの解説記事を執筆。Instagram(@photo_cuisinier)では、シェフなど飲食に携わる人のポートレートを撮影している。