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飲食店の採用活動を成功させる極意。求人のプロが語る「人材獲得に効く募集術」とは?

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採用成功の秘訣は、柔軟性のある対応と魅力のアピール

では、具体的に飲食店事業者側はどのような採用活動を行うことが有効なのだろうか。小倉氏は提言する。

「求人票を作成する際には、柔軟な働き方で、安定して長く働ける環境が整っていることをお伝えできるといいですね。福利厚生や休日の取得についてもそうですが、『フレキシブルな働き方にも対応しますよ』という採用側の意向もきちんと明示すると良いでしょう。プライベートを重視される方、たくさん働いて稼ぎたい方など、それぞれに応じた待遇を具体的に記載するほか、実例などを紹介するとより興味を持ってもらえます」

もちろん賃金面などの高待遇が実現できれば、応募数は高まる。最近は、求人を掲載する度に給与を見直し、賃金をアップさせる企業も目立っており、エリア内の平均賃金より少し上乗せした金額に設定するだけでも、応募数アップは狙えるという。とはいえ個人店ともなると、なかなか福利厚生や待遇を充実させるのが難しい場合もあるだろう。

「そのような場合は、個人店で働くメリットを具体的に紹介するのがおすすめです。例えば『ホールだけでなく調理など様々な業務に携われる』、『裁量が大きい』など、そのお店でしか経験できない、身につけられないスキルをしっかりお伝えするのがいいと思います。プラスで職場環境、スタッフの仲の良さなどもお伝えできると、応募数が増える傾向にあります」

そう小倉氏が話すように、自店の良さを見つけることも重要。まずは現在店舗で働いているスタッフに、お店で働くことの魅力をヒアリングしてみるのもいいかもしれない。

「求人@飲食店.com」に限っては個人店の掲載が多いため、「お店の自由度が高いから」、「自分の腕を試せるから」、「新規出店に携わることができるから」などの理由で応募する求職者が多いようだ。求人票を作成する際は、そういった動機の傾向も意識すると良いだろう。

求人セールスグループ・マネージャーの西澤美能里氏

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■実際に働いた際のイメージをいかに持ってもらうか
また、ラーメン業態や居酒屋業態、和食業態の事業者は、特に人材不足の傾向があるという。こうした業態ではどのような採用活動を行うのが得策なのだろうか。小倉氏曰く、

「例えばラーメン業態の場合『重労働』、『厳しい』といったイメージを持っている求職者が多いので、求人票では一般的なイメージを払しょくするような実情を書くといいでしょう。和食業態の場合は客単価が高く、敷居が高いと感じている求職者も多いため、未経験からでもスタートできるような研修や支援制度が整っていることなどを書くと、応募数アップが見込めると思います」

とのこと。加えて西澤氏は、業態関係なく応募数アップにつながる求人票の作り方について「求職者自身に、いかに実際に働くイメージを持ってもらうかが大切。そのためには実際に働いているスタッフの写真や働いている様子の写真を掲載するほか、キャリア例や習得できるスキルなど、未来を想像できる要素を記載するのもおすすめです」と教えてくれた。視覚的なイメージを伝えることで求職者が現場で働く姿をリアルに想像ができるため、掲載する写真の工夫は効果的だという。

西澤氏と小倉氏曰く、「採用後のミスマッチによる離職を防ぐためにも、求人票ではある程度リアルな情報を掲載することが大切」とのこと

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応募から内定までのスピードが勝負。オンライン面接の活用も

次にコロナ禍を経て、飲食業界の採用活動の実態にどのような変化があったかを尋ねた。

「オンライン面接を活用する事業者が増えてきました。隙間時間で実施でき、場所も拘束されないオンライン面接は、何社も応募している求職者や忙しい採用担当者の双方にメリットがあります」

小倉氏によれば、一次面接をオンライン面接に切り替えた事業者は3〜4割程度に上るという。もう一つ、コロナ禍の今、事業者側が採用活動において意識したいことについて「採用のスピード感」を小倉氏は挙げる。

「求職者は1社だけでなく、何社も応募されていますので、連絡や採用スピードの早い企業の内定を受ける可能性が高くなります。応募があったらすぐに返事をしてリードタイムを短くするなど、求職者との連絡をスピーディーに行うことがとても大切です」

実際、内定を一番始めに出した企業に入社する人は8割というデータもあるそう。選考の過程も、書類審査を省略し、一回の面接で内定を出すという短いステップの方が、採用成功につながりやすいようだ。

さらにもう一つ、念頭においておきたいのが、採用活動の地域差だ。「東京23区内、特に主要5区は求人掲載数が多く、すぐに媒体での掲載順位が落ちてしまう傾向にあります。応募数を増やすためには、求人記事を見てもらうための露出をする掲載方法が必要でしょう。一方、郊外エリアは求職者自体が少ないため、2〜3か月ほど時間をかけて掲載し、自社に合ったに応募していただく心づもりが大切です」と西澤氏は話す。

「雇用促進支援金」や「業態転換支援制度」なども利用検討を

最後に、飲食店事業者が採用に際して活用できる、自治体の支援制度について聞いてみたところ、西澤氏は大阪府による「雇用促進支援金」をあげた。

「エリア限定ですが現在、大阪府が今年の9月末を期限に雇用促進支援金を給付しています。正規雇用労働者の雇い入れについては一人当たり25万円、非正規雇用労働者の雇い入れについては一人当たり12.5万円を支給する制度ですので、該当する事業者は使わない手はないと思います」

採用活動に直結する支援制度ではないものの、コロナ禍で業態変更する事業者が増えているということもあり、農林水産省が行っている業態転換支援制度も利用を検討する価値がありそうだ。こちらは補助率1/2、補助上限金額が1,000万円となっている。

第7波を迎え、新型コロナウイルスの新規感染者数は増加しているが、時短要請などの制限がない今、求人の掲載数減少は見られず、むしろ増えてきているという。そのような状況の中で優秀な人材を獲得するためには、応募者の心理に寄り添った柔軟かつ誠実な受け入れの姿勢や、スピーディーな対応が求められる。

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中森りほ

ライター: 中森りほ

グルメ系ウェブメディアの編集・ライターを経てフリーライターに。フードアナリストの資格を持ち、現在マガジンハウス『Hanako.tokyo』や徳間書店『食楽web』、ぐるなび『dressing』、日経『大人のレストランガイド』などで飲食店取材記事や食のエッセイを執筆中。