個人経営の飲食店が行うべき節税対策 -青色申告編- 税理士がわかりやすく解説!

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「税金のことは気になるけれど、きちんと勉強をしたことはない」、「もしかすると無駄に高い税金を納めているのでは?」こうした懸念を抱く飲食店経営者は少なくないだろう。そこで本記事では、ファイナンシャルプランナーとしても個人事業主のサポートなどを行う税理士の高橋昌也さんに「個人飲食店が知っておくべき、節税対策の基本」について、わかりやすくご教授いただいた。
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個人飲食店における節税対策の基本とは?
今回クローズアップしたのは、事業面に限定した所得税に関する税金対策について。来年からはインボイス制度が始まることもあり、消費税にかかわるナレッジを求める声も増えてきているが、そちらはまた次回の記事でご解説いただく。
■本記事を執筆した方
<高橋 昌也(たかはし・まさや)>
2007年、神奈川県川崎市で開業。「ちいさなおしごとのお手伝い」を掲げ、数多くの中小零細事業者を支援。税務だけでなく、その人の人生そのものが良い方向に向かうような業務で高い評価を得る。認定経営革新等支援機関として、経営計画策定や税務特典の適用もサポート。

高橋さん近影。事務所にて
何はなくとも「青色申告」
節税対策の基本にして奥義とも言えるのが、青色申告の適用です。青色申告というのは、一定水準を満たす経理処理をすることを条件に適用を受けられる制度で、その特典は多岐にわたります。
①青色申告特別控除
青色申告における最大の目玉特典です。正式な経理処理の手続き(複式簿記)を採用し、確定申告書に所定の決算書を添付することで、10万円から最大で65万円までの控除を受けることができます。
大まかに言えば「きちんと経理処理をすると、経費が最大で65万円上乗せできる」といったイメージです(正確には若干異なりますが)。65万円も所得が減らせれば、少なくても数万円、時には2~30万円くらい税金の額が変わってくることもあります。
この控除を受けるためには期限内申告が必要です。また最高の65万円控除を受けるには、基本的にe-Tax(インターネットなどを利用して電子的に手続を行うシステム)による申告が原則となります。また、求められる経理処理の水準もそれなりに高いので、請求書や領収書の整理、会計ソフトの導入など、事前の準備が必要な事項もあります。
②青色事業専従者給与
所得税のルールでは、同一生計親族(配偶者や子どもなど)に給与を支払っても税務上の経費にすることはできません。この制限がないと、家族に給与を支払ったことにすることで所得が分散され、不当に税金を安くすることができてしまうためです。
しかし青色申告をしている事業者については、事前に提出された届出書に記載された金額の範囲内で、給与として必要経費を計上することができます。事前申請されており、かつ金額が適切な範囲に収まっていることが条件となりますが、事業者本人の所得が高い場合には、とても有効な税金対策になります。
ただし、この制度を活用すると、配偶者控除や扶養控除の適用は受けられなくなります。事業者本人の所得状況が問われるので、ある程度所得(儲け)が出るようになった時点で、適用を検討するのが良いでしょう。

国税庁ホームページ「はじめてみませんか?青色申告!(令和4年5月)」より
③その他制度
上記で紹介した以外にも、青色申告を採用していると以下のような特典を受けることができます。
・貸倒引当金
売掛金や貸付金といった未回収の債権について、一定の割合で貸し倒れることを見積もって経費計上をすることが可能です。
・純損失の繰越しと繰戻し
事業を行った結果、赤字になってしまった場合の救済制度。翌年以降に損失を繰り越したり、前年も青色申告をしている場合には繰り戻しを行い、前年の所得税について還付を受けることができます。
・少額減価償却資産の特例
通常、10万円以上の設備投資は固定資産計上が必要となりますが、青色申告をする一定の事業者は、30万円未満の設備について、一年で経費計上することが可能です。
青色申告についてWebなどで調べると、中には「開業したてで儲けが少ないときは白色申告で十分」、「青色申告にすると経理処理が面倒だから白色の方が良い」といった情報も出てきます。しかし、基本的にこれらは誤りです。かなり限定された状況でない限り、税金の計算上、白色申告の方が有利になることはありません。また平成26年以降、白色申告でも記帳義務が課されるようになったため、簡便な方法ではあるものの経理処理が必要になります。いずれにしても経理処理が必要なら、丁寧に処理をすることで青色申告の適用を受けたほうが得であると考えるべきでしょう。

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開業したてで資金が厳しいときにこそ、得られる特典はしっかりと受けるべき
青色申告の適用を受けるには、その年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を納税地の税務署まで提出しなければなりません。また開業初年度の場合には、開業してから2か月以内に提出する必要があります。
飲食店の持続的な経営と発展において、青色申告は絶対に欠かせない制度。ぜひ申請について前向きに検討してほしいと思います。
その他の税金対策について。専門家への相談も視野に
もちろん、青色申告以外にも、さまざまな税金対策が存在します。例えば、
・一定の事業計画書を策定することで、設備投資時に税金が安くなる
・ある程度所得が高い場合には、法人設立が有効なこともある
など。これらの制度を適切に活用することで、税負担の状況は大きく変わってきます。
しかし、求められる税金対策は、開店当初から成長期、停滞期と状況が変わるにつれて、常に変化していくもの。つまり、すべての個人飲食店事業者に対し、一概に「これをやっておけば良い」と言える話ではないのです。
最近では税理士を探す手段も多様化しているので、もし自分一人で対処する自信がない場合には、税理士等へ相談することも検討してみてください。多くの場合、処理の正確性、税務調査への対応といったところで、税理士に支払う報酬を超えるメリットを得られるはずです。
