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三つ星中国料理店『茶禅華』、料理の世界観を支える二人のサービスパーソン

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写真左から、「茶禅華」マネージャー・大下太洋さん、シェフソムリエ・上野和寛さん

2017年開業、2020年には日本の中国料理店として初めての三つ星を獲得した東京・南麻布の『茶禅華』。シェフ川田智也さんの料理の世界観をお客様に最大限味わってもらうために大切な役割を果たすのが、マネージャーの大下太洋さんとソムリエの上野和寛さんをはじめとするホールスタッフの存在だ。ゲストの居心地の良さを演出して「黒衣に徹する」という二人に、厨房とお客様をつなぐための仕事の難しさや醍醐味、今後どのようなことを目標としているのかを聞いた。

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死角の多さを長所に変える

大下 『茶禅華』のサービスは「全体の中の専業」というスタンスです。ホールスタッフ全員が専業を持ちつつ、それ以外の色々な業務にもかかわります。厨房もポジション分けして、鍋場と前菜と冷菜でゾーンが分かれているんですけど、それぞれのサブがあちこち補助しています。サービスのゾーン分けとしては基本的には2階の個室は上野、1階のダイニングは僕が担当しつつ、ワインが好きなお客様のところには上野が、器が好きなお客様には僕が、といったようにお客様を見て柔軟に対応しています。誰かが誰にという「ベタ付き」はあまりしないですね。この建物はもともと住宅(大使公邸)だったので、レストランの大きさとしてはかなりコンパクトで、また死角がとても多いんですよ。だから、スタッフ同士はインカムを使いつつ、見えない部分は想像力で補完する。

上野 今の『茶禅華』を生んでいる一つの特徴は、スタッフ同士の距離が物理的に近く、狭いことから生まれているところもあると思うんですよ。狭いと、コンビネーションはやりやすくサービスにスピード感が出ます。それがうちのスタイルになっている。

大下 室内用カメラも開業当初はあったんですけど撤去しました。お客様が気にされるのもありますし、僕らがそれに頼ってもしょうがないのかなと。カメラから見える世界は機械的で、テーブルの状況が視覚情報だけになってしまうんです。そうではなくて、僕らサービスマンが、お客様が本当にどういう状態でどういう雰囲気で召し上がってるのかを厨房に直接伝えないと意味がないのかなと思います。

上野 面白いもので、なければないで、テーブルの状況は音とか勘で大体わかるようになるんですよ。例えば、レンゲが器に当たる音がし出すとそろそろ食べ終わりかなとか。よし1分後に下げようって、多分あちらのお客様は召し上がるのがゆっくりだから、あと1分後かな、下げよう、と言うと、見事にハマります。特に個室は見えませんから、耳と目と感覚を集中するんです。カメラに頼っていると多分この中身が見えない。

察することはサービスマンにとってとても重要で、音や小さい何かの動きでその次を察することが必要となる。その感覚を磨くためにどういうことをしているのだろうか。

大下 ありふれた答えですが、よく見てよく聞くことだと思うんですよね。そのあと、そのすり合わせです。実際は「40秒違ったな」とかあるじゃないですか、それは、その感覚が違ってて見れてなかったのかな、と。そこをすり合わせてゆく。

上野 毎日毎日、想定と実際をすり合わせて感覚を養うことと、あと想像することだと思うんです。そのお客様が何を欲しているのか、どのぐらいの時間で退店されたいのか。コース2時間半~3時間で終わらせるところから逆算すると、1時間で大体このぐらいまで料理を出すというのを決めていかなければいけない。お皿のスピードコントロールは僕らがやることだと思うんですよね。お客様は自由でわがままでいいんです。2時間で出たいっておっしゃってもゆっくり召し上がるんですよ。それを厨房に少し早く作ってもらったり、ちょっと待ってもらったりしてうまくコントロールするのが僕らの仕事なんです。

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うずら

ライター: うずら

レストランジャーナリスト。出版社勤務のかたわらアジアやヨーロッパなど海外のレストランを訪問。ブログ「モダスパ+plus」ではそのときの報告や「ミシュラン」「ゴ・エ・ミヨ」などの解説記事を執筆。Instagram(@photo_cuisinier)では、シェフなど飲食に携わる人のポートレートを撮影している。