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〈ノーマ閉店に思う〉札幌『ル・ミュゼ・イデア』石井誠さんが考える「これからの働き方」

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『ル・ミュゼ・イデア』エントランス

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未来のレストランのためにできること

現在のレストラン業界を「大きな分岐点を迎えている」という石井さん。ではどのようなレストランがこれから求められていくのだろうか。

「営業時間をフレキシブルにしたり、予約の取り方が変わったり、そういったことが未来のレストランにおいて起きると思います。レストランという箱での営業だけがすべてではなくなるし、ウーバーイーツのようなビジネスでも、もっと高いレベルのニーズに応えられるガストロノミー寄りのサービスが生まれるかもしれません。また、食が多様化して、アレルギーやヴィーガンなど食の指向や宗教的禁忌などのリクエストがある人の比重が高くなってくると、そういうリクエストにも応えざるをえなくなってきますよね。これからどんどん国境がなくなっていく時に、今までのおまかせコース1本の時代から、そういう細かいニーズに応えられる高級レストランが求められていくと思います。

この年齢になると、人を雇うのに疲弊してワンオペにしたいという仲間の話をよく聞きます。僕も最近まで同じ思いだったんですけど、それを40~50代でみんなやり出すと、次の世代が育たない。未来がない発想なんですよね。シェフの料理を学びたいという熱意のある若い人が今後入る可能性だってあるわけです。その人が大成するには時間がかかるし、相当に難しいと思うんですけど、難しいからといって間口を閉じてしまうと、次の世代が育つ可能性はゼロです。だから、少しでも可能性があるのなら間口を開いておきたい。

僕は今年50歳になります。30年やり続けてやっと最近、地域や業界のことを野心無しで考えられるようになりました。昔は他人のことを考える余裕はなかったですよ。本当は今もないんだけど、自分自身や自分の店のことばかりみんなが考えると社会は良くなっていかないし、自分も救われないと痛感したんです。だから、業界内でも異業種同士でも、それぞれが得意分野を活かしながら関わり合い、双方の価値を高めていくことをみんながもっと協力してやっていく必要があると思っています」

「持続可能な社会」の実現は、まずは私たちそれぞれが他者に関心を持ち関わり合っていくことから始めればいいのでは、と石井さんは語る。石井さんの現在の試行も将来、思いがけない形の実を結ぶかもしれない。

『ル・ミュゼ イデア』
所在地/北海道札幌市中央区宮の森1条14丁目3-20
電話番号/011-640-6955
席数/12
http://www.musee-co.com/

石井誠(いしい・まこと)
1973年、北海道生まれ。調理師専門学校を卒業後渡欧し、フランスやイタリア、スペインなどを巡る。帰国後『レストラン エノテカ札幌』『ル・フェスタン・デュ・ノール』を経て、2005年に『ル・ミュゼ』開業。2020年、1階を『コンセプト・セー』、2階を『ル・ミュゼ・イデア』にリニューアル。

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うずら

ライター: うずら

レストランジャーナリスト。出版社勤務のかたわらアジアやヨーロッパなど海外のレストランを訪問。ブログ「モダスパ+plus」ではそのときの報告や「ミシュラン」「ゴ・エ・ミヨ」などの解説記事を執筆。Instagram(@photo_cuisinier)では、シェフなど飲食に携わる人のポートレートを撮影している。