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スシローの「6,700万円訴訟」に学ぶCSRの重要性。迷惑行為に対し企業が果たすべき責任とは

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写真はイメージ。画像素材:PIXTA

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企業価値を毀損する者への対応

飲食業が公正な市場競争を通じて、良質な財とサービスを提供することは、社会のニーズと合致し、それ自体が社会貢献となるのは言うまでもない。スシローを含む回転寿司チェーン店は、安価で手軽に、安心、安全に楽しめる寿司を提供することで地域の食文化を豊かにし、地域住民の食生活を豊かなものにしている。そのことで企業の持続的な発展が期待できる。現代の企業が求められるCSRの下、本件事案を考えてみればスシローサイドのここまでの動きは容易に理解できる。

実際、同社ではCSRとして「安全・安心をつなぐ」を掲げ、「仕入れ先の品質・衛生管理を徹底」「店舗での衛生管理を徹底」などを強調している(同社HP・安全・安心をつなぐ)。

問題の少年が醤油差しを舐め、ライン上を回る寿司に唾液をつけるという業務を妨害する行為に出た。それが動画で拡散されれば、少なくない顧客はスシローの寿司は清潔ではない、さらに言えば安全ではない、安心できないと考え、来店を控えるであろう。スシローとしては自社が掲げるCSRの妨害をされたに等しい。再発を防止するためにハード面の改善が必要になり、また、そうした企業価値を毀損する者に対して、その損害を賠償させなければ企業が損害を引き受けることになり、株主に経済的な損失を与える。

少年に対して損害賠償を求めないことは、CGコードの基本原則1の「上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行う」に反する。提訴の時点で6,700万円の損害があったと算定したのであれば、その金額を求めるのは当然。仮にそのような損害賠償を求めないのであれば、取締役は任務を怠ったことになり、株式会社に対して生じた損害を賠償する責任を負うことになり(会社法423条1項)、株主代表訴訟が提起されることも予想される。株主代表訴訟は「株主による責任追及等の訴え」(会社法847条見出し)の一般的な呼称。株主が会社に代わって役員等の責任を追及する訴訟であり、現代では珍しくない。

このように少年に対する損害賠償請求は純粋に企業統治の観点から提起されるもので、少年に制裁を与えたり、更生させたりすることとは次元の異なる話である。それらの点は、偽計業務妨害罪で告訴しており(被害届提出)、刑事責任の追及の場において考慮されるべき問題。そうなると、上記①の「少年も社会的な制裁を受けており、十分に反省しているように見える」という意見は全く的外れであることがわかるだろう。

また、損害を賠償せよというからには生じた損害に相当する金額を請求するのは当然で、どの程度の金額が妥当なのかは裁判所が審理を通じて決する。そうなると上記②の「とても少年には支払えないレベルの請求をすることは酷」という批判も同様に的外れである。

写真はイメージ。画像素材:PIXTA

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副次的効果としての抑止力

相手は少年、反省していれば、許してやるのも大人の態度という考えは、おそらく昭和の時代のアバウトな発想と言えるのかもしれない。21世紀の今、企業の社会的存在意義を考えれば、不法行為の加害者の属性にかかわらず企業としての取るべき道をとらなければならない。

その副次的効果として「子供の悪ふざけのようなことと軽く考えていると、巨額の損害賠償を請求されかねない」という意識を社会に植え付け、抑止力となりうるのである。

本件事案は飲食業の経営者にとって、企業統治の面で極めて重要なケースとなることは間違いない。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/