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スシローの「6,700万円訴訟」に学ぶCSRの重要性。迷惑行為に対し企業が果たすべき責任とは

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写真はイメージ。画像素材:PIXTA

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大手回転寿司『スシロー』を運営するあきんどスシロー(本社・大阪府吹田市、代表取締役社長・新居耕平)が、店舗で醤油差しを舐めるなどの行為をした少年に対し、3月22日付けで大阪地裁に損害賠償約6,700万円を求めて提訴した。少年に対する巨額の賠償請求の是非には様々な意見が出されているが、事案発覚後の一連のスシローサイドの動きは危機管理の点で参考とすべきものが多い。

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刑事・民事の両面で厳正に対処

岐阜市内のスシローで高校生だった少年が醤油差しを舐める、レーンで回っている寿司に唾液をつけるなどの行為を行い、その動画が1月29日頃からネット上に拡散され大きな騒ぎとなった。そのほとんどは少年の行為を咎めるもので、少年はそれが原因で高校を中退し、自宅に引きこもる状態が続いているとされる。

スシローでは1月31日に被害届を提出、その後、岐阜県警は偽計業務妨害の疑いで書類送検する方針を固めたと報じられた(読売新聞オンライン・「スシロー」迷惑行為動画、客の少年と撮影者ら数人を書類送検へ…月内にも)。偽計業務妨害罪(刑法233条)は法定刑が3年以下の懲役または50万円以下の罰金で、決して軽くない。

刑事責任の追及とは別に民事上の損害についても少年に賠償を求める訴えを提起しており、これが冒頭の約6,700万円の請求である。訴状では動画が拡散されてから全国的に来客数が大幅に減少。同31日には親会社の株価が5%近く下落し、1日で160億円以上の経済的な価値が失われたとしている。さらに、その後、迷惑行為の対策のために新たに費用が発生する見込みで、9,300万円まで請求を拡張する可能性があるとしている。

このように少年の行為によって1億円近い損害が発生しており、その損害分を支払ってくださいというのがスシローサイドの主張である。

両親とともに訪れた少年の謝罪を受けてもスシローの態度は変わらず、被害届を提出した翌日の2月1日には、引き続き刑事、民事の両面から厳正に対処するという文書を発表した(同社ホームページ・SNSで拡散されたスシロー店舗での迷惑行為に関するお知らせ)。

写真はイメージ。画像素材:PIXTA

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企業が果たすべき責任を規定したCGコード

スシローの対応に対し、疑問の声もないわけではない。批判的な意見もネットを中心に存在する。「スシロー 少年」でネット検索すれば、いくらでも目にすることができる。

①少年も社会的な制裁を受けており、十分に反省しているように見える
②とても少年には支払えないレベルの請求をすることは酷

このような意見があるにもかかわらず当初からの態度を変えずに民事・刑事の両面から厳正に対処を続けるのは、企業の社会的な責任(CSR=Corporate Social Responsibility)を果たすという目的があると思われる。
 
CSRとは「企業活動において、社会的公正や環境などへの配慮を組み込み、従業員、投資家、地域社会などの利害関係者に対して責任ある行動をとるとともに、説明責任を果たしていくことを求める考え方です」(厚生労働省ホームページ・CSR 企業の社会的責任)と説明される。

会社は営利を目的とする社団法人であるが、営利の追求だけを目的とする団体(法人)でいいはずがない。違法ではなくても、倫理的ではない、社会の規範から外れた手段を用いて利益をあげることは許されない。東京証券取引所では2015年6月にコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)を策定。法令ではないものの、現在では企業が果たすべき責任を規定した重要な指針となっている。

「上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。…」(基本原則1)

「上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。…」(基本原則2)

要は企業は自分だけ儲かればいいという考えを捨て、株主や関係者(ステークホルダー)の権利を守り、力を合わせて企業価値を高めてくださいということ(以上、東京証券取引所・コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~)。あきんどスシローは東証プライム市場に上場しており、当然、CGコードに則った会社経営を求められる。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/