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レモンサワー発祥店『もつ焼きばん』、恵比寿店も月商1000万超え達成。多店舗展開の必勝法に迫る!

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鮮度がよいもつ焼きが、創業当時からの看板メニュー。常連客はカウンター越しに顔なじみのスタッフに、いつものもつ焼きを注文する

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常連客も従業員も古株揃い。いつも変わらぬ、昔ながらが『ばん』の価値

「『ばん』の基本は、変わらないこと。自分のお父さんやお爺さんが楽しんでいたかもしれない店を、そのまま体感できることが『ばん』の価値です」

上述のように定番メニューは変わらないし、仕入れ値が上がった今でも価格転嫁は避けてきた。もつ焼き1本121円とは、破格の値段設定だ。

「大学生が思いっきり飲んで食べて、お会計を見て『安っ!』って驚いていますよ。一品あたりの単価が低いことも、週2〜3日のペースで通ってもらえる理由の一つでしょうね」

スケールメリットを生かした低価格の実現と業務効率化、そして質の担保のため、仕込みはセントラルキッチンで行われている。

「3店舗目の出店時からセントラルキッチン方式を採用し、勤続43年のベテランスタッフが料理長として、全店舗で提供する料理を取り仕切っています。スキルの差が出やすい串刺し工程をセントラルキッチンが担ったことで、味のブレがなくなりましたし、各店舗の仕込み時間が削減されたので昼飲み営業を行う余裕が生まれました」

コロナ禍以降に始めた昼飲みも好評で、昼夜問わずどの店舗でも『ばん』を愛してやまない人たちが集まっている。客の7〜8割は常連客だというが、なかには10年以上通っている客や、週6日通う客も多いそう。カウンター席にいつも座わっている常連客の存在を含めて、店の景色なのだという。また従業員も古株揃いで、10年選手は当たり前、勤続20〜30年のベテランが店を守っている。変わらない人がいることも、安心感を生み出す一つの要因と言えるだろう。

気取らず飲めることも『ばん』らしさ。ポップやポスターなどを隙間なく飾った、雑多な感じが味わい深い

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また、出店を重ねるうちに、目指すべき店舗デザインも確立していった。ただ、4、5店舗目となる下北沢店や高田馬場店はこれまでの倍の面積となる30坪の物件に挑戦したが、広くなった分、売上も倍…とはいかなかったそうだ。

「広い店は『ばん』らしさを出しづらいんです。通路や席の間隔が狭くて、場合によっては相席をお願いされるくらい客同士の距離が近い、ぎゅうぎゅうの空間でわいわい飲むのが『ばん』らしさだと気づいてからは、ちょっと薄暗くて味のある落ち着く空間を意図的につくるようになりました。逆に下北沢店、高田馬場店では、広いキッチンを生かしてデリバリーに対応するなど、既存店とは少し趣きの異なる魅力を提案しています」

チェーン店になるな! 店舗ごとの個性を光らせ、常連客との関係を深める

いずれの店舗でも根強い常連客で賑わう同店だが、新規出店地でファンを作る努力と、そのエリアの客層へ媚びることは別物だと松本氏は言う。

特にわかりやすいのは高田馬場店の例だ。高田馬場といえば学生街で、価格帯の安い居酒屋が多く並ぶが、そこに合わせて価格帯とともに質を下げてしまっては、『ばん』らしさを失うことになる。

サワー発祥の店『ばん』ならではのレモンサワーの楽しみ方。当時主流だった「チュウタン(甲類焼酎の炭酸割り)」を爽やかに飲めるよう、レモンを加えて提供したのが始まり

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「目先の売上ほしさに飛びついても、結果的に我々が求める成果にはなりません。学生や若者ばかりが集まる店になったら、中年男性客が一人で飲みづらくなる。常連がいなければ『ばん』らしくないから、それを面白がってくれていた女性や若者も来なくなる、と本来の目的からどんどん離れてしまいます」

ではどのようにファン形成するかというと、創業者である小杉氏の「とにかくサービスをしろ」という教えが根本にあるようだ。

「『ばん』はチェーン店ではないから、マニュアル化されたサービスをしてもお客さまは満足しません。親父がよくやっていたように、常連客には『いつもありがとう』ってお新香を出すようなサービスは、店長の裁量でやってもらっています。『あなたのことを見ているよ』、『あなたは特別なお客さまだよ』と伝える、そういう心の通わせ方を親父は自然とやる人でした」

こうした温かみのある接客は安心感や特別感を抱きやすく、客にとっても『ばん』がかけがえのない居場所になっていく。細やかなサービスの継続が、新天地でのファンづくり欠かせないということだろう。また基本メニューは全店共通だが、「今日のばんばんばん」という3品の日替わりメニューだけは、各店の店長が提供する料理を決めており、店舗ごとの個性を押し出し、魅力を形成している。

「『ラーメン二郎』のマニアが推し店舗を持つのと同じように、『ばん』の常連客もそれぞれの推し店舗があるんです。『ばん』は一つのブランドだけど店舗ごとの個性があり、常連客はその店舗が好きで通ってくれています」

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松本ゆりか

ライター: 松本ゆりか

東京でWebマーケターを経験した後、シンガポールへ渡りライフスタイル誌やWebメディア制作に携わる。帰国後、出版社勤務を経てフリーライターに。主に中小規模ビジネスや働き方に関する取材・執筆を担当。私生活ではひとり旅とはしご酒が好きなごきげんな人。