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月商は200万円あれば十分。久我山『おいっちゃ』がワンオペ営業で目指す理想【連載:居酒屋の輪】

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『おいっちゃ』の店主・野沢泰基(のざわたいき)さん

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繁盛している居酒屋はどこかで必ずつながっている。名店誕生までのストーリーを探りつつ、また別の新しい名店を紹介してもらう連載企画。前回登場『ゑぶり場亭”(エブリバディ)』の小木泰輔さんが名前をあげたのは、客足の絶えない人気鉄板焼き屋の元店長だ。現在は予約制の居酒屋を1人で切り盛りし、事業を拡大するつもりもないという。月商200万円あれば十分という……、その理由とは?

居酒屋『おいっちゃ』があるのは閑静な住宅街が広がる杉並区の久我山駅エリア。店主である野沢泰基さんが「いらっしゃい」と爽やかな笑顔で出迎えてくれる。

野沢さんは、吉祥寺を代表する鉄板焼き居酒屋『じゅん粋』の立ち上げメンバーだ。『すっぴん』『サイコロ』など、坪月商50万円以上の繁盛店ばかりを運営する株式会社バカワライの代表、小林淳さんの右腕として創業時から長きに渡り会社を支えていた。

久我山駅から徒歩2分の好立地。南口から線路を渡ってすぐにある『おいっちゃ』

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人生の岐路で選んだのは居酒屋を追求すること

鉄板焼きを活かした巧みな調理技術にも定評がある野沢さんだが、この独立店で振る舞うのは創作和食。「お客さまから修業先を聞かれ『鉄板焼き居酒屋です』と答えるといつも驚かれます。『またまた、冗談でしょ?』って」。そう笑いながら、洗練された所作で魚介をさばく姿は、どう見ても日本料理店で技を磨いた腕利きの板前だ。

Google MAPでの口コミでも、

「手間を惜しまず、また素材への敬意や愛情を感じる料理」
「美味しいだけでなく、楽しい」
「この値段で良いの?ってくらいコスパ良いです」
「この物価高騰の中、このクオリティでこのお値段は本当にお値打ち」
「大将のお人柄にも惚れます」

と絶賛の声ばかり。平均4.8点という高得点を叩き出している。

見事な包丁さばきで仕込みを行う野沢さんだが26歳まで料理人は未経験だった

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「実は『じゅん粋』を立ち上げるために料理の修業をはじめたんです。大学卒業後は制作会社に就職して、タバコのプロモーションをする部署で働いていました。昔から食べるのも飲むのも好きで、趣味として料理はしていたものの、素人に毛が生えたというか、毛すら生えていない状態で(笑)」

飲食業に転向したのはサラリーマンとして4年ほど経験を積み、ずっと続けてきたプロジェクトが終了したタイミング。学生時代にアルバイト先で知り合った小林淳さんの元で「一緒に居酒屋を立ち上げたい」と考えたのがきっかけとなった。

日々更新している日替わりコースのメニュー表。予約客の名を入れ和紙に印刷する

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「当時は同じ仕事を続けることに価値を見いだせませんでした。繰り返し改善を続けて効率など追求した後は、段々と飽きてしまう性格なんです」という野沢さんだが、料理においては違った。

常に新しい変化を好む野沢さんだからこそ、豊洲や川崎の市場から届く新鮮食材を使用した『おいっちゃ』の料理も斬新なものばかり。どこまでも奥の深い料理の世界に、どっぷりとはまり込んだのである。その基礎になっている技術は、意外な場所で学んだようだ。

「淳さんと『じゅん粋』を立ち上げることになり、まずは職業安定所に向かいました。料理の修業ができる職場を紹介してほしいって。それで案内されたのが株式会社ダイヤモンドダイニングです。面接で『素人ですが、やる気は十分なので0から教わりたい』と猛アピールしたところ……結果は不採用(笑)」

試験では、料理人としてのスキルを記載するマークシートを白紙で提出したという野沢さん。「せっかく制作会社でキャリアを積んだのに、今から飲食業に飛び込む必要はないのでは?」という評価だったが、後日「アルバイトでもいいなら」と声がかかった。

「まずはバイト開始の数時間前に、自分で買った魚を店に持ち込んで料理長からさばき方を教わりました。立ち上げから間もない店だったこともあり、発注管理やオペレーションも改善点が多々あって。前職で積んだ経験だけでなく、自分は簿記1級の資格を持っているので、さまざまな角度から効率化の提案をさせていただきました。先輩方には『とんでもなく面倒くさいアルバイトが来たな』と思われていたはずです(笑)」

野沢さんは入店後間もなく、アルバイトながら厨房と発注を取り仕切る責任者となった。

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佐藤 潮.

ライター: 佐藤 潮.

ミシュラン三つ星店から河原で捕まえた虫の素揚げまで、15年以上いろいろなグルメ記事を制作。酒場系の本を手掛けることも多く、頑固一徹の大将に怒られた経験も豊富だ。現在、Webのディレクターや広告写真の撮影など仕事の幅が広がっているが、やはりグルメ取材が一番楽しいと感じている。