看板なしで坪月商65万円。学芸大学『目黒 三谷』が示す“繁盛店づくりのニュースタンダード”
通行人の関心を惹いて、インスタグラムに誘導
『目黒 三谷』は客単価4,900円の炭火焼き居酒屋だ。
「従来の飲食店の販促はグルメサイトなどを用いた広告に依存しがちでしたが、消費者のネットリテラシーが上がったことにより、その効果も半減しています。InstagramやTikTokなどのSNS経由でグルメ情報が拡散されるようになった今は、ハイクオリティな商品とサービスという外食本来の価値があらためて評価されるようになった。炭火焼きは煙や炎、風味、音など料理を五感で楽しんでいただけるパフォーマンス性が魅力であり、それが情報拡散にもつながりやすいと考えました」(曽我氏)
この曽我氏のネット戦略は『目黒 三谷』のファサードからも読み取れる。
曽我氏は前職でともに働いていた仲間4人で独立し、1か月半かけてDIYで店を造っていった。外装デザインで特筆されるのが看板を一切とりつけていないという点だ。
「築80年の建物が持つ味わいこそが一番のアピールポイント。ファサードのガラス面を広くとり、炭火焼きによるシズル感、ライブ感のある雰囲気が伝わるようにすれば、必ず店の前を歩く方の関心を惹くと確信していました」と説明する曽我氏。店頭にはInstagramのQRコードを印刷した名刺を置いて関心を持った歩行者のアクセスを誘導しているが、それだけでフォロワー数は2,000人を超えている。
ペルソナを明確に設定して商品構成を固めた
フードメニューは税抜で580~1,180円(税込640~1,298円)を中心価格帯として35品をラインアップ。「極みレバー串」(460円)や「上ミノの炭火焼き」(860円)など、芝浦の食肉市場に毎日足を運んで仕入れる豚内臓肉をメイン食材としており、焼き野菜にも各地の生産者から直送された食材を使用するなど、フード原価率44%を投じて高品質を追求している。
2024年8月の新メニューとして投入された「さつま知覧鶏のごて焼き」(1,300円)は鹿児島の郷土料理を再現した商品で、火柱を立てて焼き上げる豪快さが売り。「三谷名物芝浦直送生ホルモン煮込み」(970円)はマルチョウだけを塩味で煮込んで鮮度を強調し、「目黒ポテサラ」(750円)は卵白で作る酸味を利かせた自家製マヨネーズでマッシュポテトを覆い隠すなど、独創性の高い商品がメニューに並ぶ。
ドリンクは税抜550円(税込600円)と650円(同720円)をプライスポイントとして56種を揃えており、赤、白、オレンジ、ロゼ、各4~5種を常備するナチュラルワインがメニューの柱。「餅は餅屋」だと曽我氏が言うように、自由が丘のワインショップ『VIRTUS WINE Jiyugaoka』によるセレクトだ。
また中目黒のバー『Bar Tub』の監修でジンジャーを利かせた「目黒レモンサワー」(660円)をサワーの名物ドリンクとして投入。曽我氏が持つ人脈を使い、目黒区内の外食店と連携をとって商品力を高めている。
フード、ドリンクのメニュー構成と価格設定でキーになるのがペルソナの設定だ。「年収700万~800万円の大手企業の役職者とベンチャー企業の経営者、もしくは年収500万円ほどのアパレル関係者やクリエイターといった情報感度が高い層」とターゲットを明確に設定。「そうしたメイン客層が店そのものの価値を上げ、それが情報拡散にもつながる」(曽我氏)など緻密な計算がなされている。
