「ひとり呑みしやすい店」で坪月商35万円。中目黒『風見堂』の目から鱗のワンオペ技
居酒屋然とした「場」を楽しんでもらうための工夫
『風見堂』は一人でしっぽり呑むタイプではなく、居酒屋然とした「場」を楽しんでもらうための店。そこで横田氏は、初見の客同士をつなげる会話の糸口をつくろうと、他にも工夫を施す。
「お客さんとの会話内容から連想される言葉を頭の中で探して『単語化』します。例を挙げると天気の話。激しい雨の様子について聞いたら、『ハリウッド映画ぐらい降ってますね』と単語で返します。先ほどの1対店を意識した口調で。すると、それを聞いた違うお客さんの数人が、具体的な映画のタイトルを挙げて話を膨らませてくれたりします。単語をポトンと落とすことで、会話の波紋が広がるイメージですね」
これはワンオペにとってもメリット。単語によるお題を提示することで、自身はその会話から離れて、次の作業に取り掛かれるからだ。この単語化を無意識に行っているという。横田氏は元放送作家、22歳から4年ほどバラエティー番組の制作に携わった。
「会議でのプレゼンなどで、分かりやすく伝えるために『単語でしゃべれ』とよく上司から言われました。頭の中でひたすら言葉を探す作業が、今の原点かもしれません」
すべてはお一人さまのために。予約とボトルキープはNG
開店当初の売り上げ目標は月商200万円で、半年後の2022年12月には順調にクリア。その後も予約が途切れることなく入り、連日「3回転」の日が続いた。しかし結果的に回転をこなすだけになり、客とのコミュニケーションが疎かになりがちに。さらに予約席を確保するため、フリーの一人客の入店を断らなければいけなくなった。
そこで横田氏は舵を切り、2024年1月から完全に予約をシャットアウト。「予約がない怖さは当然ありますけど、『ひとり呑みしやすい店』として貫きたかったです」と覚悟を決めた。
『風見堂』ではボトルキープもNG。ボトルという「私物」が店にあることで、常連ばかりの店になる恐れがあったから。新規の一人客は肩身が狭いし、入店しづらくなる。
一方で横田氏はこうフォローする。「もちろん、常連を拒否するわけでありません。事実、中には週5で通ってくれる方もいます。ただ、そうやって自ら発信することでコンセプトに共感し、店を大事にしてくれるお客さんが多いですね。新規のお一人さまを迎え入れやすい雰囲気をつくってくれます」
また開業前、居抜き店舗の奥は元々テーブル席だったが、これを改装。オープンキッチンと対面するカウンター4席を設置した。一人客のための席が増えたことで、店内の雰囲気がより一体感のあるものに。加えて、料理を運ぶ導線もストレートとなり、ワンオペの負担が軽減された。
