「ひとり呑みしやすい店」で坪月商35万円。中目黒『風見堂』の目から鱗のワンオペ技
おでん出汁&鍋を活用したワンオペ・テクニック
一人呑みは男性よりも女性にとって敷居が高いが、『風見堂』では約6割を女性客が占め、ときにはカウンター全席を埋め尽くす。雰囲気づくりもさることながら、「日頃食べ慣れたメニューに、ひと手間加える」をコンセプトに据えた、約30種の料理もその一因に違いない。
名物の「自家製ソーセージ」は、初回の注文率80%。仕込みに2時間以上を要するが、「圧倒的な手作り感をお伝えできるのがこれ。ガツっと歯ごたえのある超粗挽き肉の食感が特徴です」と横田氏。そこに『実山椒』または『黒胡椒』の2種類の味からお好みを選んでもらい、さらなる刺激をプラスするというオリジナルメニューだ。
もう一つの看板が「おでん」。タネの種類は定番10種にプラス、その日のおすすめ。通年で提供する理由は、具をすくって出すだけですむのはもちろん、鰹、アゴ、昆布から取るおでん出汁を別の料理に生かせるワンオペ向きの酒肴だから。煮びたしや〆のラーメンのスープなどに利用でき、汎用性が高い。
さらにステンレスのおでん鍋は、熱源としても重宝。鍋の隅にホテルパンをはめて湯を張れば、熱燗をはじめ事前に仕込んだあんかけの具などが保温できる。同様に鍋の一角でしゃぶしゃぶを調理するときもあるそう。オペレーションの効率化を図る手段として最適なのである。
売上高の60%を占めるのはアルコール類。なかでも、おでんと相性のいい「カップ酒」が売上をけん引している。ラインナップは常時20種類ほど、定番は10種程度に抑え、季節ものやリピーターが喜びそうな個性派をストックしておく。
日本酒(一升瓶)ではなく、カップ酒を選んだのも手狭なワンオペ店ならでは。「まず瓶は場所を取るし、毎回グラスに注ぐ手間も掛かります。違う銘柄を注文するたびに『グラスを変えてください』という人もいるはず……。その点、カップ酒はそのまま出せて保管もラク。常にフレッシュな状態で出せるのもいいですよね」
しかも、パッケージの柄は女性好みのイラスト入りなど百花繚乱。「『辛口のおすすめは何ですか?』とか尋ねられたら、数本のカップをそのお客さんの前に並べて、特徴を説明するんですよ。すると、隣にいる方も気になって、『私もそれください』と注文が広がることが結構あります」と、横田氏はカップ酒の魅力を教えてくれた。
フードは440円、550円、660円のラインが中心で、1,000円を超えるものはほぼない。平均客単価は2、3品頼んで3杯呑む計算で約3,500円。各単品の価格設定は原価率を意識しつつ、他店の動向を把握した上で「価格感」で調整する。
「私の居酒屋巡りにはそういった目的もあります。他店のメニューの金額を見て、今の業界の『普通』を常に意識しないと。そして、原価率よりも普段使いで利用されるお客さんに納得してもらえるかどうかという、価格感を大切にしています」
「ひとり呑みしやすい店」の看板を掲げるには覚悟が必要
最後に、これからワンオペで「ひとり呑みしやすい店」の開業を目指す方へのアドバイスをお願いしたところ、「ビジネスとしてだけ考えると、ひとり呑み用のお店はあまり向いていないと思います」と明け透けな回答が返ってきた。キャパ的に売上が一気にハネることはなく、地道に新規顧客を獲得していくしかないのだ。続けて、横田氏は言う。
「人と向き合う回数が他の業態よりも断然多く、しかもワンオペだとやはり疲れますよ。うちはフードメニューが30種類あり、いくら効率化を図っても、結局、営業中のパワープレーでどうにか回している感じなので。人にはおすすめできませんし、正直メニュー数はもっと絞ってもいいくらい。それでもやってしまうのは『来てくれた人にできるだけ楽しんでいってほしい』という思いからです。やっぱり根本として『好き』であることが、続けていく上で一番大事なのではないでしょうか。そういった思いがなければ『ひとり呑みしやすい店』と、謳わない方がやりやすいかもしれません」
ワンオペで回すスキルは重要だ。だがそれ以上に、場の雰囲気をつくる店主の朗らかな人柄と、確固たる居酒屋愛がなければ、お一人さま向けの店を成功させるのは困難なはず。中目黒の人気ワンオペ店主に接し、そう強く感じた。
『中目酒場「風見堂」』
住所/東京都目黒区上目黒3-1-14 メイツ中目黒 1F
電話/03-6451-0934
営業時間/17:00~24:00
定休日/月曜
坪・座席/6.9坪・17席(カウンター13席、テーブル4席)
https://www.instagram.com/kazami_do/
