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人件費は惜しまない。『酒場アカボシ』など超人気店を支える、優秀な人材の育て方

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2023年にオープンした渋谷『タートル』は、若者が多い渋谷において、大人が落ち着いて飲める店がコンセプト(画像提供:株式会社plow)

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人件費をかけることで従業員の“やりがい”を創出

まず、ピークの時間帯には、いわゆる“スキマバイト”スタッフを採用し、洗い場業務の委託を実施。その分、人件費は嵩んだが、正規スタッフの負担が大幅に減った。

正規スタッフの求人は、主に飲食店専門の求人サイト「求人飲食店ドットコム」を活用。離職率の高さに悩んだ時期には、他の媒体も活用したが、応募数の多さから再び活用するようになり、求人票の内容も見直した。

「以前は、とにかく人手が欲しい一心で、待遇面や立地、雰囲気など、応募者にとってよく見えそうな表現を意識していましたが、採用後にギャップが生まれる原因になります。現在はそうした表現はやめ、最小限の情報をシンプルに伝えています。それでも当社への求人が多い理由は、インセンティブ制度にあるのでは」

同社では各店舗が目標とする売上金額を達成すると、報酬として6万円が支払われるほか、ボーナスや住宅手当、子ども手当なども支給している。

「今は短時間アルバイトをお願いする必要もなくなりました。また、インセンティブ制度を導入してから現在まで、すべての店舗で目標売上を達成できなかった月はありません。その分、スタッフにとっては“(報酬が)もらえるのが当たり前”という感覚になっているかもしれませんが、仮に目標を達成できなければ、何がよくなかったのかを見直し、より良い店にするために改善する機会にもなるでしょう」

2023年にオープンした三軒茶屋『赤星』は、昔ながらの大衆酒場のような趣も(画像提供:株式会社plow)

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金銭面も、休暇も。スタッフが“余裕”を持って働ける環境を作りたい

スタッフに対して金銭面の余裕を提供できたら、次の課題は“時間の余裕”、つまり十分な休みを提供できるのかが鍵だ。これまでも月6〜8日の休日に加えて有給休暇制度を設けてはいたものの、人が足りていない現状がわかっていれば堂々と休みにくい。そのため、有休を消化できないスタッフがほとんどだったという。

「今年から少し仕組みを変え、シフトを1か月ごとに組むようにしました。事前申請をして長期で休むことも、申請せずにスポットで休むことも可能です。また、スタッフが集中している日があれば『この日は回せそうだから、有休使っていいよ』と声をかけることも。そうしたら、みんな休みを取るようになったんです」

最近では、10年間勤務したスタッフに感謝を表して、長期休暇と家族でのハワイ旅行をプレゼントする予定なのだとか。その際、他のスタッフに気兼ねなく休めるよう、シフトを工夫するという。こうした取り組みは、「自分もいつかは…」というモチベーションにもつながるだろう。

一人ひとりのスタッフを“人財”として尊重する久我氏の在り方に驚いていると、「どの立場の人の気持ちもわかるから」と微笑んだ。

19歳で飲食業に足を踏み入れた久我氏はアルバイトからスタート。皿洗いから始まり、ドリンクが作れるようになり、やがてホール担当になり……と段階を踏む内に本格的に飲食業に興味が湧き、社員になり、店長経験を経て独立した経験を持つ。

「店の売上が上がったら、給料にも還元してほしいと思うのは当たり前のことです。結婚して家族ができたら、生活を守るためにさらにお金が必要になるでしょう。自社の仕組みは、こうした自分自身の経験、感じてきたことを反映させたものです」

定期的に行う社員ミーティングでは、原価率や人件費が売上に及ぼす影響と同時に、“数字以上に大切なこと”も伝えていきたいと話す久我氏。

「自分自身にいわゆるサラリーマン経験がないので、どうして飲食業界に対して悪いイメージが持たれてしまうのかわからないんです。だから、一般企業で働く人に対して、『自分は飲食店で働いていて、これだけの収入や休みが確保されていて、報酬もあって……』と胸を張れる職場環境を作ることができたら、業界全体に変化が起きたり、他業界からの印象も変わったりするのではないでしょうか」

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河西みのり

ライター: 河西みのり

フリーランスで活動するライター&インタビュアー。現在はソーシャルメディアや業界紙など多岐に渡り執筆。飲食店取材からレシピ本の編集、お取り寄せカタログのコピーまで“食”にまつわる分野を得意とする。