社員の定着率約8割! 門前仲町『ろくばん』流、「スタッフの心をつかむ店づくり」
高報酬ではなく、店の雰囲気やブランド力向上で人材を獲得
高報酬を提示する、都心部の店と真っ向から戦うのは難しい。だからこそ、上杉氏は「ここで働きたい」と思ってもらえるような独自の魅力づくりと、働きがいのある環境整備に一層注力している。
「3店舗それぞれに特徴があって、自分なりにブランディングを大事にしています。だから、どこでもいいというよりは、店をめがけて来てくれるお客さんをターゲットにしている。働く側もそういうフックがないと、応募してくれないと思っています。現在うちで働いてくれているアルバイトは、以前お客さんとして来てくれた子や、お客さんのお子さんというパターンが多いんです」と上杉氏。店の雰囲気やブランドが、採用において重要なフックになっていることがうかがえる。
例えば『六傳』と『ろくばん』はどちらもデザイナーが空間設計を行い、古木をふんだんに使ったオシャレな雰囲気が特徴。それぞれ割烹料理店のカジュアルダウン化、大衆酒場のグレードアップ化を図った現代酒場で、お客からの評判が高い。
厳しい採用市場で、上杉氏は様々な求人媒体も試してきた。「大手媒体も色々と利用しましたが、掲載料が高く、門前仲町というエリア特性もあってか期待したほどの効果は得られませんでした」と振り返る。そんな中、現在メインで活用し、絶大な信頼を寄せているのが「求人飲食店ドットコム」だ。
導入のきっかけは、かつて茅場町で店を営んでいた際、近隣で繁盛していた飲食店の経営者からの口コミだった。
「そのお店はいつもアルバイトさんが充実していたので、『どうやって求人を出しているんですか?』と聞いたんです。そうしたら、『うちはいつも求人飲食店ドットコム。めちゃくちゃいいですよ』と教えてくれて。それで存在を知り、実際に募集をかけてみたら、すぐに何件も応募が来て。その効果の高さには本当に驚きましたね」。
以来、費用対効果の高さと確かな手応えから、求人媒体は「求人飲食店ドットコム」一本に絞っている。実際に12坪34席の『ろくばん』は、オープニングの求人で、応募総数が29件あり、アルバイト10名、社員2名の採用に成功した。
店のレベルに合わせてもらうのではなく、個々のスキルに合わせた柔軟な働き方を提案
厳しい採用環境下で、上杉氏が最も重視するのは「人柄」だ。「技術は後からついてくると思っています。うちのお客さんは割と(スタッフとの)距離が近いので、一生懸命な子に対しては、できなくても『ゆっくりでいいからね』と優しく接してくれます」と語る。
かつては店のレベルを維持するために、スタッフに一定のレベルを求める教育を行っていたが、人によってはスキルが追い付かず、退職してしまったことがあった。そんな苦い経験から、上杉氏は考えを改めたという。
「最近は、社員それぞれの技量や志向に合わせた働き方、仕事内容を与えるよう意識するようになりました。『給与を上げたい』と考えている人には、そのために必要な目標を設定してあげますが、一方でライフワークバランスを重視したい人に対しては別の目標を話し合って設定しています。また『人によって仕事のスタンスが違う』ことを、スタッフ同士でも理解してもらうよう心がけています」と、お互いが歩み寄る姿勢を大切にしているのだ。
この考えは、日々の店舗運営にも反映されている。例えば、出勤時間は固定せず、その日の仕込み状況に応じて各店舗のスタッフが決められる。
「休めるときは休んだ方がいいし、逆に仕込みが多いときは早く出ないといけない。うちはランチをやっていない分、既製品を使わないこだわりの料理を出そうという方針です。やることがないなら午後2時に来たっていい。その代わり、やることがあれば午前10時に来ることもある。みんな責任を持ってやってくれています」(上杉氏)。
『ろくばん』は現在、月商400万円ほどで推移している。3店舗合わせたスタッフ構成は上杉氏を除き社員7名、アルバイトは12名だ。現在上杉氏は、スタッフの定着率を上げるため、労働環境の改善にも積極的に取り組んでいる。
「『ろくばん』をオープンした直後は、店を成り立たせるのが優先でした。しかしオープンから1年半ほどが経ち、だいぶ落ち着いてきたので、スタッフを増員し、いずれは日祝も営業しながら、ローテーションで週休二日が取れる体制にしたい。売上がないとやりたくてもできないことが多いので、段階を踏んで環境を変えていこうという最中です」と明かす。
