坪月商72万円を売る『釣宿酒場マヅメ 野毛本店』。緻密な「顧客体験設計図」が成功に導く
社長の趣味をヒントに新コンセプトが誕生
業態転換前の海鮮居酒屋『魚盛』でも刺身や寿司などをメインに提供していたが、『釣宿酒場 マヅメ』では何が大きく変わったのだろうか?
「『魚盛』はオフィス街の忘新年会や歓送迎会など、宴会需要をメインターゲットにしていました。ですがコロナ禍で状況は一変し、宴会の需要が減ってしまい、個人客をターゲットに変更する必要が生じたんです。そこで、個人のお客さまに刺さる“キャッチーなワードとは何か?”を、みんなで意見し合い考えました」と続ける飯野氏と志田氏。
それまでの“海鮮をメインで提供する”ことは変えずに、すでに使い古された感のある“産地直送”や“漁師直送”といったワードではなく、何かもっと新しい、もっとお客の心をつかむワードはないだろうか――。
喧々諤々社内で議論していた時に、株式会社ダイナックの代表取締役社長である秋山武史氏が話したある話題があった。それは海の近くに住む秋山氏の趣味の一つである“釣り”に関してだった。
「釣った魚は網で獲られる魚よりストレスが少なく旨味が強い。鮮度もよく、おいしいにもかかわらず、釣った本人かまたは食べきれない場合に知人に分けるなど、限られた人の口にしか入らない」
この話が大きなヒントとなり、「釣り魚を提供する店を作ったらどうだろうか」という方向性が見えてきた。さらに「釣った魚を持ち帰らずに海に捨てていく人もいる。その無駄になってしまう魚を仕入れて、お客さまにおいしく提供できたらSDGsにも貢献できる」と考えた。
そこで、都内近郊の釣り宿や漁港と提携して、釣り魚や捨てられてしまう魚を買い取ることで、低価格での安定提供を実現させたという。新業態『釣宿酒場 マヅメ』の誕生だった。
「宴会ができる店」から「魚がおいしい店」へ大きく転換
海鮮居酒屋『魚盛』から『釣宿酒場 マヅメ』への業態転換で、一番大きく変化した点は、顧客のお店選びのポイントが「宴会ができる店」から「魚がおいしい店」になったこと。来店客のグループ人数も平均2.1人と少人数になり、一人での来店も増えた。
また刺身であれば1皿4切れに、そのほかの料理も一皿の量を1~2名分に。少量ずついろいろな料理を楽しみたいという女性客も増えた。全体のリピート率も3割に達するという。
看板メニューは、刺身をはじめとしたリーズナブルな魚料理。そのほかオリジナルのおつまみも豊富で、貝出汁を使ったおでんは季節を問わず人気がある。昼夜統一メニューで、その数は約90種にもおよぶ。
「競合他社の価格帯なども調べて、新業態でこだわったのは“低価格”と“魚種の多さ”です」と話す志田氏。お客があまり食べたことのない魚種を扱うことで店の付加価値を高め、“釣宿”らしさを出した。
釣り魚だけでなく、その地元でしか食べられない珍しい魚種も加え、日変わりで13~14種を429円〜という低価格で提供。刺身はもちろん、たたきや昆布締め、炙りなど多彩な食べ方も用意した。
また野毛本店では週に3日、その日に入荷した活魚を店内で神経締めにしてさばき、刺身や寿司にして提供するイベントを開催。魚種は日によって異なり、それを楽しみに通い詰める常連も多い。店内にいる約8割のお客が、さばきたての活魚を注文するという。









