上野『ひつじあいす』の赤字からの脱却劇。羊肉×クラフトビールで月商1,800万円!
コロナ禍で総合居酒屋が苦戦。「未来がないなら好きなこと」と羊肉×ブルワリーに着手
『ながおか屋』の成功で会社は盛り返したが、コロナ禍という新たな試練が到来する。特に、1階から3階まで150席を擁した大箱の総合居酒屋『和食バル さしすせそ』は深刻な打撃を受けた。宴会需要が完全に消失し、もともと高かったお客の年齢層も災いして客足が途絶えたのだ。目的来店が少なく、お客との絆が弱かったことが浮き彫りになった。
「このままパンデミックが明けるのを待つのか、それとも次の時代にチャレンジするのか」。自問自答の末、前川氏は「未来のことはわからないけれど、ワクワクしながらやりたいことにチャレンジする方を選びたい」と決意する。
コロナ禍で上野の町から人が消え、「このままでは町の生命力が失われる」という強い危機感を抱いていた前川氏。町の再構築には、不忍池という豊かな自然を活かし、「池から一番近い町」として昼の需要を取り込むことが不可欠だと考えた。その構想の核となったのが、クラフトビールだ。
コロナ禍の町おこしイベントで、前川氏は地ビール作りを提案。委託醸造で完成した「シノバズYELL ALE」を地域の飲食店に無償で配ったところ、大きな評判を呼んだ。
「この町にブルワリーがあれば、もっと面白くなる」。
長岡商事が長年営んできた『ビアハウス ホッペルポッペル』の店長だった上松貴昭氏の夢がビール造りだったこともあり、彼に醸造長を任せ、自社でマイクロブルワリーを設立することを決断した。
料理は、自身の原点である羊肉をさらに深めることにした前川氏。国内の羊農家を巡ると、生産量が少ないため、一頭買いでないと仕入れられないことを知る。ならばと前川氏はラムチョップに限らず、ニュージーランド産に加え、国内の羊農家からは一頭買いを行うことを決意。様々な希少部位の魅力を伝える羊料理専門店を目指した。
「流行るかどうかはわからない。しかしこの先の未来がないのであれば、自分の好きなことをやろう」。前川氏は半ばヤケっぱちな気持ちで振り切った結果、2021年12月、『ひつじあいす』はオープンした。
羊肉×クラフトビール特化で目的来店に成功し、最高月商1800万円に
オープン当初は醸造免許が間に合わず、半年間はフードのみで営業した『ひつじあいす』。不安な滑り出しだったが、「ジンギスカンではない羊料理を探してたどり着いた」という熱心な羊好きの客に支えられた。
ブルワリーを併設した1階、個室のある2階に加え、最近では売上好調につき、旧店舗の内装をそのまま残した3階の掘りごたつ広間も稼働させている。

右手前から時計回りで、余剰ビールで煮込んだ「ラムシャンク煮・カルボナード風」(2,980円)、「ラムチョップ」(1本660円)、「ラムパッチョ」(2,200円)、「ひつじあいす」(Large1,080円)
商品開発では、羊の多様な部位を最適な調理法で提供することにこだわる。看板メニューの「ラムチョップ」は客数に対し91%という驚異の注文率を誇る。次いで人気の「ラムパッチョ」は、40%のお客が注文する逸品だ。自家製クラフトビールは常時4〜6種をラインアップ。中でも店名を冠したペールエール「ひつじあいす」は33.5%の客が注文するシグネチャービールとなっている。
結果は数字にも表れている。直近の平均月商は税抜きで1650万円。今年3月には過去最高の1800万円を達成した。客単価は約4,500円。社員比率の高い手厚い人員で、調理とサービスの質を追求し、顧客満足度を上げることで利益を確保する方針だ。
