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視点を変えた“パン飲み”が人を呼ぶ東松原『Crumb.』。経験値に裏打ちされた確かな戦略と発想

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「カントリーブレッド」を添えた「パプリカのタルタルと茄子のペースト」(2,200円)

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店内営業に菓子製造、酒販……。一人で続けるために散りばめたさまざまな工夫

酒井さんは日本橋のベーカリーカフェ『パークレット』を経て、自身の店をオープンした。

「ただ自分の店を持つにあたっては、当初から販売メインのベーカリーに特化するつもりはありませんでした。これまでの経験を活かしたいということもありますが、もう一つの理由は、ベーカリーは初期費用がかかる割に利益が少ないからです。また、販売だけで利益を出そうとすると、惣菜パンや菓子パンも作る必要があります。でもそういったものは私が目指す“毎日でも食べたくなる”パンとは方向性が違うと思っていました」

開業にあたって物件を探したのは、自宅から通える範囲で、なおかつ「アクセスは悪くないけれどあまり知られていない街」。東松原の路地に見つけたこの物件はビストロの居抜きで、想定よりも広い10坪強で予算もギリギリだったが、カウンターのある店の雰囲気が気に入った。また、パンを作るにはある程度の広さが必要なので、結果的には良かったという。

「一人で店を続けていくために、なるべく無理はしないと決めていたので、融資申請のために提出した事業計画書は、満席が続かなくても経営できる方法を考えて作成しました」

その分、売上を上乗せさせるために、菓子製造と酒販の免許を取得。パンや惣菜、菓子、アルコールの販売も行うことで月商250万円と、安定した売上を確保している。

内装はほぼ居抜きの状態のままだが、アンティークの棚など、酒井さんのセンス溢れるアイテムが店の雰囲気を彩っている

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人気店での経験を、自身の店に詰め込む

酒井さんのバックグラウンドはユニークだ。最初に就いた職業は看護師。心身ともにハードな日々のなか、「違ったかたちで人に喜んでもらえる仕事をしてみたい」と、看護師をしながら飲食店でアルバイトをするようになった。その後、本格的に飲食業へ転向。料理家のアシスタントも経験したが、子どもの頃から自分の店を持ちたいと考えていたこともあり、料理人の道へ進むことにしたという。

パン作りを始めたのは、シェフとしてとある店に勤めていた頃。料理に合うパンが見つからず、自分で作るようになったのだ。当初から国産小麦によるサワードウブレッドを作っていた。

「このスタイルのパンを作ることの大変さが、当時はまったくわかっていませんでしたね(笑)。国産小麦でサワードウブレッドを作るのは、他の小麦で作るよりずっと難しいんです。挑戦している人が少なくて、すべて独学でした」

この日店頭に並んだパンは、「オリーブとクルミのパン」(ホール1,500円、ハーフ800円)、定番の「カントリーブレッド」(ホール1,800円、ハーフ900円)

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その後、別の店でソムリエとして働きながら、個人でレストラン向けにパンの製造を行っていたところ、声をかけられたのが『パークレット』だった。サワードウによるパン作り、マネージング、ソムリエと、豊富な経験を持っていることが買われ、ヘッドベイカーとして店の立ち上げに参加。パンの道には進まず、料理人だけを続ける選択肢もあったが、「成長のチャンスだし、ここで経験を積めば自分の店が持てるようになるはず」と思ったのだという。

「専門店のパンの作り方や利益の出し方など、ノウハウを学ぶことができました。いかにパンを加工して魅力的なメニューにし、なおかつ利益を出すのか、ということを常に考えながら店のマネージングも行っていたので、『パークレット』での経験は大きな自信になりましたね。そのため、開業するにあたってはそれほど大きな不安を感じることはありませんでした」

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難波美枝

ライター: 難波美枝

ライター・エディター。プロ向けのフランス料理専門誌の編集部におよそ10年在籍した後、フリーランスに。料理雑誌やワイン専門誌、Webなどで星つきレストランからビストロ、バルまで、幅広く取材。