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熱中症対策、義務化の夏。飲食店の具体的な取り組みと課題を独自調査

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画像素材:PIXTA

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身の危険を感じるような暑さが全国的に続いている。飲食店経営者は、従業員の体調管理に頭を悩ませているかもしれない。こうした例年の猛暑を背景に、2025年6月1日から「職場における熱中症対策」(https://www.mhlw.go.jp/content/001476821.pdf)が法的に義務化された。罰則も伴うこの新たなルールによって、特に厨房という高温環境を持つ飲食店は、これまで以上に重い責任を負うことになりそうだ。

そこで今回「飲食店ドットコム ジャーナル」では、飲食店ドットコム会員を対象に「熱中症対策についての調査」を実施。調査結果から見えてきた、飲食店における対策の現状と課題を紹介する。

■調査概要
調査対象:飲食店ドットコム会員(飲食店経営者・運営者)
回答数:304
調査期間:2025年7月22日~2025年8月15日
調査方法:インターネット調査
※詳しい調査結果はこちら/Q7以降(https://www.inshokuten.com/research/result/551)

義務化から2か月。飲食店における熱中症対策の実態

法改正から約2か月が経過した今、多くの飲食店が熱中症対策を講じている実態が明らかになった。まず、店舗が実施している対策を、割合の高い順に見ていこう。

・水分・塩分補給の奨励・提供(59.9%)
・空調設備の整備・温度管理の徹底(厨房含む)(45.7%)
・休憩時間の確保・指導(31.9%)
・作業環境の改善(換気、冷却ファンなど)(30.6%)

この結果からは、最も基本的でコストをかけずに始められる「水分・塩分補給」に、多くの店舗が優先的に取り組んでいる様子がうかがえる。また、半数近くが「空調設備の整備」や「温度管理」に着手している点も、この問題への意識の高さを物語っているといえるだろう。

一方で、見過ごせない数字も浮かび上がってきた。回答者のうち、18.8%が「特に対策は実施していない、または検討中」と答えていることだ。義務化されたにもかかわらず、約2割の店舗がまだ対策に踏み切れていないという現実は、この問題が抱える根深い課題を示唆しているのかもしれない。

飲食店リサーチ:「2025年7月の経営状況」に関するアンケート調査より

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経営者が直面するリアル。対策を阻む「3つの壁」

対策を講じる一方で、その取り組みには大きな「壁」が立ちはだかっていることも見えてきた。熱中症対策を進める上で、特に課題と感じていることは何だろうか。

・厨房など、特定の場所の温度・湿度管理が難しい(59.9%)
・対策に必要な設備投資・費用がかかる(33.2%)
・人手不足により、休憩時間の確保やシフト調整が困難(19.4%)

やはり最大の課題は「厨房の温度・湿度管理」という現実。火を使い、熱気が常に立ち込める厨房では、どんなに強力な空調を導入しても完全な温度管理は難しい。この構造的な問題が、多くの経営者を悩ませているのだ。

また、「設備投資・費用」が3割超を占めるのも納得の数字といえる。WBGT計やスポットクーラーの導入だけでもコストがかかるなか、厨房全体の空調システム刷新となれば、その費用は中小規模の飲食店にとって大きな負担となり得る。

さらに、「人手不足」が休憩時間の確保を困難にしているという声も切実だ。人が足りないからこそ、スタッフ一人ひとりへの負担が増し、結果として熱中症のリスクが高まってしまう。こうした悪循環に陥っている店舗は少なくないだろう。

飲食店リサーチ:「2025年7月の経営状況」に関するアンケート調査より

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現場の声から学ぶ、従業員に好評な熱中症対策集

最後に、他の飲食店にも勧めたい、あるいは従業員から好評だった対策について、自由回答で聞いた。そこからは、特に高温になりがちな厨房への対策と、従業員が手軽に涼をとれる個人的な工夫という、2つの大きな傾向が見えてくる。

1. 冷却設備の工夫(スポットクーラー、サーキュレーターなど)
最も多くの声が寄せられたのが、空調設備に関する具体的な工夫だ。特に、お客のいる客席とは違い温度が上がりやすい厨房に対し、スポットクーラーやサーキュレーターを導入・増設する意見が多数を占めた。

・扇風機や冷風扇の増設と効果的な活用。配達車両の温度を速やかに下げるため、車体に水をかけるなども実施(東京都/和食/2店舗)
・食材に影響の出ない、スポットクーラーの導入(東京都/洋食/1店舗)
・出勤前の涼しい時間帯から、タイマーでエアコンを稼働させておく。28度でも涼しく感じる(長野県/居酒屋・ダイニングバー/1店舗)

2. 個人で身につける対策(ファン付きベスト、ネッククーラーなど)
ファン付きのベストやコックコート、首元を冷やすネッククーラーといった、従業員個人が身につける冷却グッズの導入も好評のようだ。特に、動きやすさを損なわずに涼しさを得られる点が支持されている。

・日中の買い出しや厨房での仕込みの時用に、腰掛けのファンを支給。「非常に涼しい」「軽量で使いやすく動きやすい」など好評価です(東京都/和食/1店舗)
・「ワークマン」の扇風機つきベストの着用(東京都/その他/6~10店舗)
・空調での温度調整は当然ですが、なるべく涼しいユニフォームへの変更が好評でした(神奈川県/カフェ/6~10店舗)

3. 手軽な水分・塩分補給の提供(ドリンク、塩タブレットなど)
従業員がいつでも自由に水分・塩分を補給できる環境作りも、多くの店舗で実践されている。「半凍結させたペットボトル茶」や「梅酢の炭酸割り」といった、従業員のモチベーションにも繋がる温かい工夫も見られた。

・「塩分チャージ」を好きなときに好きなだけ取れるように。また、麦茶とスポーツドリンクも飲み放題にしています(静岡県/専門料理/3~5店舗)
・汗だくで出勤して来たスタッフに、半凍結させたペットボトルのお茶をあげると喜んでくれます(大阪府/居酒屋・ダイニングバー/2店舗)
・キッチン・ホールスタッフ問わず、冷却スカーフの支給や、スポーツドリンクの無料提供を行っています(後略)(東京都/和食/1店舗)

4. 働き方の工夫(こまめな休憩、声かけなど)
設備や物品だけでなく、働き方やルールを見直すことで対策を進める声も挙がっている。「クールダウンタイム」のような独自の休憩時間を設けたり、個々のタイミングでの水分補給を徹底させたりと、マネジメントによる工夫も重要のようだ。

・「お客さまから見えない所にいる時は、自分のタイミングで多少の休憩や水分補給をして下さい」と常に強く指示しています(神奈川県/和食/1店舗)
・クールダウンタイムを導入して、リラックスさせている(秋田県/居酒屋・ダイニングバー/6~10店舗)
・1時間に1回は必ず水分補給の声かけを行うルールを導入。「体調に気づいてもらえる安心感がある」とスタッフから好評です(東京都/和食/1店舗)

今回の調査結果は、多くの飲食店が熱中症対策に真剣に取り組む一方で、人手不足などの根深い課題に直面しているという、複雑な現実を映し出しているのかもしれない。水分補給や空調整備といった基本的な対策は進むものの、約2割の店舗が未着手であり、そして何より、多くの経営者が「厨房の温度管理」という本質的な難題に頭を抱えていることが、改めて浮き彫りになった。

熱中症対策は、もはや「義務だから仕方なく行う」という次元の話ではない。それは従業員の命と健康、ひいては店の信頼と安定経営を守るための、不可欠な投資といえる。この厳しい課題を乗り越えるには、まずスタッフとの連携を密にし、対策の必要性を共有することが第一歩となるだろう。 国や自治体が提供する補助金や助成金といった情報も積極的に収集し、費用負担を軽減しながら、一つずつ対策を講じていってほしい。

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ライター: 『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

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