坪月商45万円の二子玉川『ニッポンドウ』。親子丼と牛皿で目指すは「100年続く居酒屋」
ネーミングのギミックでお客の想像を超える味へ昇華
肝心要のメニュー開発のポイントを聞くと、萩原氏から意外な答えが返ってきた。
「ネーミングです。みんなが知っている名前にしたのは大事なポイント。例えば親子丼は誰もが慣れ親しんだ味じゃないですか。それを薩摩軍鶏と埼玉・深谷産の宝玉卵という良い素材を使って作るのが、うちの『親子丼のアタマ』。これを『薩摩軍鶏と宝玉卵の卵とじ』というメニュー名にするのは、僕の中では違うんですよね。食べた人の想像を超える味にするために、あえてネーミングでハードルを下げるイメージです」
メニュー開発は店長・藤田快士氏と一緒に行っている。その際、店長が提案する“変化球”になりがちなネーミングを、萩原氏が“直球”の名前に軌道修正することも。
「『雲仙ハムエッグ』(770円)がそうでした。長崎県の雲仙ハムを厚切りで使うので、名前を『ハムステーキ』としても美味しそうですけど、それではイメージ通りの味になる。『ハムエッグ』にすると薄切りハムを想像するので、お客さまは目の前で見た瞬間、驚かれるんです。また、雲仙ハムは衣を付けて揚げる店が多いのですが、焼くのが一番美味しいと思うから厚切りだと喜ばれますね」
「正統派の居酒屋」を志すため、SNS映えには目もくれない。名物料理に据えたのは古き良き居酒屋のド定番で、見た目に色気のない「和牛すじの煮込み」(770円)、「至高の牛皿」の煮込み系。酒肴でも糖度高めの「冷やしトマト」、同じ商店街の八百屋さんで購入にした「ぬか漬け」(各550円)など、メニュー名も含めて余計な手を加えずに提供する。
「外来客が多い二子玉川は“映え”に特化した街です。ネットを開けば、おしゃれな料理やネーミング、内装の店があふれている。もちろん、それはそれで素敵ですけど、世代的に僕はネットを見ていると、もう疲れちゃう(苦笑)。だから、こういう正統派の店が街にあってもよいというか、あるべきだと思うんです」
アテへの注力と市場での仕入れが原価率の引き下げに貢献
集客の呼び水になっているのは、注文率8割を超える「親子丼のアタマ」と、メニュー表にカテゴライズされた12種類の「アテ」だ。日本酒との親和性が高いアテを豊富にそろえることで、つまみ主体の2次会利用はもちろん、会食本番前の“0次会”利用も促せる。収益的にも低コストの食材を用いるものが多いため、注文が入るほど粗利が見込めるわけだ。
特に「鯛出汁の煮凝り」(880円)は優秀な一品。仕込みで使うのは、刺身で余ったアラの寄せ集め、水と醤油、砂糖くらい。それらを固める作業こそ手間がかかるが、出来上がったときに価値が上がる。
煮凝りを知らないお客が興味本位で頼むことも多く、しっかり売上に貢献。メニュー表に載っていないが、酒肴を盛り合わせた「アテ盛り」(1人前1,320円)をスタッフが口頭で勧めることで、客単価の底上げも試みる。
二日に一度通う川崎北部市場での鮮魚の買い付けも、原価コストを下げる重要な仕事である。楽コーポレーションの卒業生である萩原氏は、目利きであるのが強み。直接買い付けるメリットを笑顔でこう語る。
「市場では今日はこの魚がすごく安いなど、デイリーな情報がわかるんです。さらに『まとめて買ってくれたら〇〇円にするよ』など、顔なじみの仲卸さんから声を投げかけられるラッキーな日が結構ありますね」
30~40代が主な客層の『ニッポンドウ』は、前述のように大人が納得する良質素材を取りそろえている。コストがかかる日本酒も約40種のドリンクの半数を占め、売り出し中の日本酒「風の森ボトル」シリーズは、萩原氏によれば「今はサービス価格で提供している」状況だ。それにも関わらず、原価率はフード、ドリンク込みで30%以下へ着地させている。
