西荻窪のカフェ『yuè』が完全予約制に。“制限”することで得た自由とゆとり
制限することで得たのは新たな自由。一方であらゆるロスは極力回避
予約制の仕組みの構築にあたっては、「事前オーダー」「完全予約」の結論に至るのは早かったと振り返る。席予約だけやウォークインとのミックスでは、ロスの削減や仕込み量の予測、すべてのお客に好きなものをゆっくりと楽しんでもらう時間を確保するという課題の解決にならないからだ。
「ただ、始めるまでには本当に悩んだ」と口をそろえた二人の表情には、その心情が痛いほど見て取れた。利用シーンを決めてしまうことで、どうしてもその枠からはみ出てしまう常連客がいること、そんなお客たちをいわば“切り捨てる”ような形になってしまうことが、最大の気がかりだったと話す。
「お客さまの顔を思い浮かべては『もう来てくれなくなるかな』『申し訳ない』という気持ちでいっぱいで」(沙代さん)
それでも、二人で、長く、いい店を続けていくには、この形がベターだと一歩を踏み出した『yuè』。現在、予約時のセット内容は、食事のみ、もしくは食事とスイーツのセットが楽しめる「お食事の会」と、スイーツの盛り合わせの「おやつの会」(すべてドリンク付き)に分け、それぞれ11時と13時半スタートの2部制に。心ゆくまでゆっくり過ごしてもらうこと、予約と予約の間にロスタイムを生まないことを考え、途中にお客の出入りがない2時間制の一斉スタートを採用した。当初は単価確保のために、食事とスイーツのフルセットのみで始めたが、お客の声を聞き、セット内容の変更や価格調整など微調整を続けている。
今、二人は「お客さまとコミュニケーションがとれる時間が増えた」と嬉しそうに語る。
「話せる時間ができて、お客さまからヒントをいただくことも多くなりました。当初は、少ない回転数と客数になるので、できるだけ高単価を確保しなければと盛りだくさんのセット内容で前のめりになっていたけど、ご来店後にオプションメニューを追加してくださる方が思いのほか多くて。楽しんでくださっているんだなという嬉しさと、じゃあ思い切ってベースの価格を少し下げて、追加メニューに力を入れてみようかなという判断もできました」(祐貴さん)
「時間、体力、メンタル的に、自分たちにもゆとりができましたね。新しいメニューやオプションメニュー、営業時間の発想も柔軟になりましたし、最近は、今までロスが懸念で諦めていた生菓子もできるようになったり、自家製のアイスクリームを始めたり。違った“自由”が生まれたような気がしています」(沙代さん)
「完全予約制」はパワーワードだけに一見すると多くの“制限”があるように思える。しかし、お客からいろいろな声を拾い、拾ったものを実現できるようになるゆとりが生まれることを考えると、また別の形で、お客に寄り添うことにつながるのかもしれない。
より、目の前の一皿に向き合える場所に
最後に、今後はいろいろなことにチャレンジしながら、お客にとっても自分たちにとっても、より目の前にある一皿の料理やお菓子にじっくり向き合える場にしていきたいと二人は語った。ディナーコースやモーニング営業、スポットでの和や中華の定食料理など、思い描くアイデアは尽きない。
こうして、新たな自由を得た『yuè』。二人がこの先、どのような幸せを届け続けてくれるのか、多くのお客たちが期待を膨らませていることだろう。
『yuè(ユエ)』
住所/東京都杉並区西荻北5-26-17
電話/03-6319-5873
営業時間/不定期(詳しくはInstagramで確認)
定休日/不定休
坪数・席数/11.4坪・9席
https://www.instagram.com/yue10_












