裏渋谷で急成長中の『ワイン酒場uiui』。“育てる店”だからこその持続的な右肩上がり経営
料理人の急成長を支える育成術。未経験からプロへ導く「任せる」アプローチ
オープン半年後に正社員として『ワイン酒場uiui』に合流したのが店長の岩田竜治氏。島本氏の元同僚で飲食店経験者ではあるが、もともとはホール担当で調理経験はゼロだったという。
「営業中に料理を作りながら教えるのは大変でしたが、それを見越してオープン時からメニュー構成をシンプルにしていました。また、お店が繁盛している状況も、多くの経験を積める良い環境でしたね。私は、成長には『どんどん任せること』が大切だと考えています。料理の盛り付けや簡単なカットなどから段階的に任せ、味付けが必要なものは、まかないから。その都度仕上がりをチェックしつつ成長を促しました」
味付けは化学調味料に頼らず、塩、酸味、オイルのバランスを大切にしている島本氏。決してマニュアル通りにはできない仕事であり「お客さまを喜ばせることが芯にあるので、半端な物(合格ライン以下)だとやり直しもある」というが……。
今回は岩田氏の成長ぶりを表す1品として「秋刀魚の炙りカルパッチョ」を調理していただいた。手慣れた様子で秋刀魚を炙り、氷水で冷やし、水分を抜き、包丁を当てながら、岩田氏は料理について説明する。
「魚の状態を見極めつつ、炙り加減から気を使っています。最も難しいのは塩の入れ方ですね。『おいしいと感じる濃度は約1%』という目安はありますが、食材の状態によって正解は異なります。営業中に汗をかいただけでも塩気の感じ方は変わってくるので『常に水分補給を意識する』なんてことを、島本が『1から理論立てて教えてくれる』のがありがたいです」(岩田氏)
興味がある人には理論的に仕組みを教え、数値化できるものはレシピに残し、あとは実践の中で経験を積ませるのが島本氏の教育方針。岩田氏はプレッシャーも大きかったというが、それが成長の糧にもなっているようだ。
「島本は感動するほどおいしい料理を作るだけでなく、何に対しても真剣なんです。それがこちらにも伝わるからこそ『僕もしっかりしなくては』と気が引き締まります。任されたからには『絶対においしいものを出すぞ』と心に決めて。あとは『お客さまへの愛情』と『自分を信じる心』です。ときには味付けがブレてしまうかもしれませんが、それでも愛情と自信を持つこと。温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに食べていただければ、お客さまにもおいしいと思っていただけるものです」(岩田氏)
経験を積むほどに岩田氏の作る料理の質も向上し、お客からの反応も変化した。「おいしい」という感嘆の声だけでなく「もう1皿食べたい」と同じメニューが連続でオーダーされるなど、客単価アップにも結びついていく。
「お客さまからの反応が良いときは、カウンターの中でひそかにガッツポーズを決めています(笑)。高いモチベーションを維持できているのは、お客さまからの声や島本の教えだけでなく、ライバルの存在も大きいです。20歳近く年齢が離れていますが『この味付けブレてない?』なんて気を使わずに言い合える関係ですよ」(岩田氏)







