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坪月商58万円の中目黒『nou』さらに成長中。上昇志向の人材を惹きつける“独自の評価制度”とは?

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「誰と働いて、誰と笑い、目標を達成するか」が板垣氏と会社のテーマ

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手厚い福利厚生はただの入り口。求職者が本当に惹かれるのは「誰と働くか」

同社の求人募集の待遇面を見ると、「資格支援制度(費用の8割を会社負担)」や「引越し時の不動産紹介」など、中小規模の飲食店としては異例とも言えるほど手厚い福利厚生が並んでいる。これだけでも求職者にとっては十分に魅力的だが、板垣氏は「今の求職者は、決して条件面だけで働く場所を選んでいるわけではない」と断言する。

「正直なところ、福利厚生が充実している会社や、給与が高い会社は、今の世の中にいくらでもあると思うんです。大手のチェーン店ならもっと良い条件を出せるかもしれない。でも、うちに入社を決めてくれる子たちは、面接の前に必ず店へ来て、どんな空間でお客さまが楽しんでいるのか、どんな料理を作っているのか、スタッフがどのような表情で働いているのかを、すべて自分の目で確かめています。そのうえで、うちの会社の理念でもある『誰と共に目標を達成するか』という人間関係や熱量の部分を重要視してくれていると強く感じますね」

飲食業界における職場の悩みの大半は、人間関係に起因すると言われている。どんなに給与が高くても、職場の空気が悪ければ人は定着しない。逆に言えば、良い仲間に囲まれ、確実に自分が成長できると実感できる環境があれば、熱意ある人材は自然と集まってくるのだ。不利な立地でのスタートという逆境をはねのけ、圧倒的な売上をつくった最大の原動力は、システムではなく、結局のところ「熱意ある人の力」に他ならない。

優秀な料理人ほど独立で去る。ジレンマを打ち破る「業態転換」と組織改革

順風満帆に店舗を拡大しているように見える同社だが、板垣氏には経営者としての根深い悩みがあった。それが「優秀な料理人の独立・転職」である。今回、併設する店舗を『nou HaNaRe』としてリニューアルした背景にも、中心的なスタッフのステップアップという事情が根底にあった。

「以前の和食業態を任せていた料理長が、一つ星レストランへの転職を決めたんです。誤解してほしくないのは、今の環境に不満があって辞めたわけではないということ。本当に優秀すぎるがゆえに、もっと上の厳しいステージで自分の腕を試したいと、次へ行ってしまうんです。うちのスタッフは精鋭揃いでモチベーションも高いのですが、その分だけ上昇志向も非常に強く、特に和食を牽引する責任者クラスがなかなか長期的に定着しないという課題がありました」

そこで板垣氏が着手したのが、既存の枠組みにとらわれない抜本的なリブランディングだった。まずは和食業態ではなく、ビストロ業態の強化を推進。それまで提供していたコース料理を思い切って廃止し、アラカルトメニューに全振りしたのだ。さらに、2万円だった客単価をあえて1万円台前半まで落とすという、業界の常識からすれば「逆張り」とも言える戦略に打って出た。

「今、中目黒というエリアで本当に求められている価格帯や客層を分析した結果、このスタイルがピタッとハマりました。結果的に、予約が入りきらないほどお客さまが増え、日商は以前の1.5倍にまで跳ね上がったんです。そこで、この勢いに乗って『nou』を拡張する形でのリニューアルを決断しました」

元々の和食業態自体もかなり繁盛していたため、この転換は大きな賭けでもあった。「売上自体がどう転ぶかは予測できない部分もありました」と板垣氏は振り返る。一方で、食材の仕入れや日々の仕込みを一本化することで労働時間を削減し、営業利益率を底上げする強固な仕組みの構築に成功した。

2026年3月からは『nou HaNaRe』のオープンだけでなく『nou』も増席。わずか2席ではあるが効果は大きく、坪月商65万円に到達する目算だ。「このシステムをさらに研ぎ澄ませて、来年は関西エリアに進出することも視野に入れています」と、板垣氏の目はすでに次なるステージを見据えている。

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佐藤 潮.

ライター: 佐藤 潮.

ミシュラン三つ星店から河原で捕まえた虫の素揚げまで、15年以上いろいろなグルメ記事を制作。酒場系の本を手掛けることも多く、頑固一徹の大将に怒られた経験も豊富だ。現在、Webのディレクターや広告写真の撮影など仕事の幅が広がっているが、やはりグルメ取材が一番楽しいと感じている。