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飲食店の「水だけ頼む客」問題、最高の解決法とは? 現場で募るイライラと注意できない事情

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Photo by iStock.com/zomby007

居酒屋や喫茶店に入って水だけ注文する客についてネット上で話題になっている。喫茶店に知人と入り「私は何もいりません」と言って注文しない、居酒屋に入って「水をください」と言って食べ物だけを頼む、店側がやんわりと注意すると逆ギレした……などの例がアップされ、賛否両論が巻き起こっている。店としても扱いに困るこうした客に対して、どのように考え、どう対処すればいいのか、現場の声を聞いてみた。

「水だけ頼む客」にも2種類あり。違法と、そうでないもの

「水だけ頼む客」問題がネット上で論争になった場合、収拾がつかなくなることが多い。それは店の置かれている状況や、「水だけ頼む客」がかける迷惑の程度によって考え方や対応が異なってくるにもかかわらず、一律に論じる点にある。

問題を整理するため、まず「水だけ頼む客」を違法なものと、違法ではないものとに分ける必要があるだろう。多くのネットでの議論を見ると「水だけ頼んでも、法律上問題ない」という結論が提示されていることが多い。それは基本的に間違いではないが、いかなる時でも当てはまるかは微妙である。

例えば喫茶店、居酒屋に2、3人で入って、全員が水だけ頼み延々とおしゃべりをしていたとしたら、店側もさすがに「注文をしないのであれば、ご退店ください」とお願いするはず。飲食店は飲食を提供して対価を得るという私的契約の場であるから、そうした目的を持った者の入店を予定しており、何も注文しない客は想定外の客となる。それを「何を注文するかは客の自由、何も注文しなくてもいいじゃないか」という理屈を持ち出して居座れば、店舗側が管理者権限を発動させるのは当然だろう。

店舗の管理者の意思に反して退去しないのであれば、不退去罪(刑法130条)が成立する可能性があるし、状況によっては威力業務妨害罪(同234条)に問われるかもしれない(退店しない者は、少なくとも業務を妨害する蓋然性の認識・予見はあり、未必の故意は認められるだろう)。これが大人数で入って、1人か2人だけコーヒーを頼み、残る人はすべて水を頼んで延々と居座るなどの場合も基本的には同様に考えていい。

Photo by iStock.com/tokkyneo

違法性がない行為だからこそ、店側も対応に苦慮

上記のような極端な例であれば管理者権限の発動ハードルは下がるため、議論の余地は少ない。問題は、そうした状況に至らない程度のケースである。

例えば、最初の一杯だけビールやコーヒーを頼み、その後、水だけ頼んで居座るものの、全体的には最初のオーダーで許容された時間の範囲内に収まりそうな場合、あるいは2人以上で入店し、1人が何も頼まないなどのケース。要は業務の妨害の故意までは認めにくい場合である。埼玉県で居酒屋を営む50代の女性に、実際にそのようなことがあるのか聞いてみた。

「そういう人たちはいます。最初に飲み物を飲んで、あとは水を何度もお替わりして、喫茶店替わりにするような人たちが。年代層で言えば、高齢の女性グループとか。ただ、商売をしている以上、それは仕方がないと割り切ります。そういう方もお客さんですから。回転率、客単価とか店の経営のことよりも、こちらがイライラする精神的な影響が大きいですね。ただ、あまり気にしないようにしています。気にすると余計、ストレスになりますから」。

このような場合、「〇時間以上、滞在の場合はご注文の追加をお願いします」と張り紙等をして対処する方法も考えられる。しかし、件の女性は「それはできません。『どれだけ生意気な店なんだ』と思われますから。そうした張り紙をすることで『あそこはうるさい店だ』と思われると、客足が遠のくかもしれません」と、現実的にはそのような対処はできない事情を説明する。

通常、居酒屋などでは「客は飲み物と食べ物を頼んでくれるだろう」という考えの下、料金設定をしている。飲み物と食べ物を同程度に頼むという期待は、社会通念上、当然抱いていい期待であろう。もし、水だけ頼んで延々と居座る客ばかりになれば、客単価も回転率も悪化するため、料金を見直さなければ店として存続していけない。飲食店の料金設定はそうした微妙なバランスの上に成立しており、社会通念から外れた客の行為は経営に対する危険を孕んでいる。その視点からの意見を聞くと、その女性はこう答えた。

「確かに計算の上では、そうなのでしょう。しかし、そういうお客さんばかりになればという話で、実際にはそうなっていません。経営上の問題とか考えるのは都心の家賃が高いお店ではないでしょうか。ウチのような都心から離れた店では、お金というよりイライラの問題ですね」。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/