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事故であきらめた料理人の道を再び。繁盛店『アイノワール』に学ぶ常連客に愛される店づくり

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「ふわふわオムライス」を調理している様子

「家庭では食べられない味」を作ることで来店動機につなげる

『アイノワール』は地元の常連客を大切にするため、さまざまな工夫をしている。例えば、店内の壁や陳列棚はレンタルスペースとして、地元客に無料で貸し出している。3週間置きにイラストや陶器など、陳列されるものが変わるため、それを楽しみにしている常連客も多いそうだ。スタンプカードも季節ごとにデザインを変えている。作成する年によって色が異なるため、いつ来店した客かわかるようになっているのだ。8回分のスタンプがたまったら割引券が当たるくじ引きをしているが、その際に名前を聞いて、次回来店時に名前を呼ぶようにしているという。リピートにつながるよう、メニューにも工夫がある。

「昼に来てくれた方が夜に来てくれるように、あえてメニューを分けています。蒸し料理やオーブン料理、ハンバーグなどの料理を昼に出さないことで『今度はこれを食べたい』と言って戻ってきてくれるので。あとは家では食べられないような調理をして提供することを心掛けています。たとえばカブは一回凍らせて漬物にすると皮のほうはコリコリだけど中のほうはトロトロになり、『どうしてこんな食感になるの?』とお客様が驚かれます。名物のオムライスも、作るのに4日かかるんですよ」

来店した年や季節でデザインが変わるスタンプカード

ふわふわのオムライスは、原さんがホテルのシェフとして経験してきた、和洋中、エスニック、製菓のテクニックをすべて注ぎ込んでいるそうだ。

「べジブロスって普通は生野菜の切れ端や皮でとるんですけど、それだと常に同じ味が出ないし、アブラナ科の野菜を入れるとえぐみが出たりします。そこで野菜をディハイドレーターという機械で乾かすことにしました。2日乾燥させたものを使うと、生のまま使うよりしっかりとした味になるんです。中華の乾物と、和食の出汁のような発想ですね。それを濾すことでコンソメのような出汁ができます。生の鶏肉を入れてごはんを炊くのはエスニックのテクニックです。しかし普通に炊くとべチャッとします。そこは洋食の発想で、生の米をオリーブオイルで炒めてコーティングしてから炊きました。オムレツには適量の塩を打つ必要がありますが、卵には利水作用があるので、塩を入れると水分が出てフニャッとなります。たぶん家庭でやると1分程度でしぼむはずです。うちでは専用の塩を1週間かけて作り、適度な量を見極めて投入することで、ふわふわ感を持続させています」

原さんが長年勤めてきたホテルでは、シチュエーションに応じてさまざまな料理を提供する必要があるため、幅広い知識や経験が身についたそうだ。オムライスはそれらの知識の集大成といえる。食べた人からは「オーガニック料理は味がぼやけたものが多いが、これは味がしっかりしている」と評判だという。米にもこだわりがあり、品種は北海道の「おぼろづき」を採用。硬水で育った米なので「大雪旭岳源水」という北海道のミネラルウォーターを使って炊いている。東京の軟水よりも本来のおいしさが引き出されるそうだ。細部にまでこだわることで「家庭では食べられない」という味を実現し、リピートにつなげている。

近隣の住民たちの手作り作品などが並ぶ陳列棚

お店のファンを増やすために重要なことは「手を抜かないこと」

宣伝せずとも新規客がどんどん来る中でも、リピーターを大切にしている原さん。そんな彼に常連客を育てるために大切なことを伺った。

「丁寧な仕事が一番なのかなって、今は思っていますね。丁寧にやればお客様にも伝わります。でも、働いている人からするとこれがなかなか難しい。私もそうですが、上司にあれやれこれやれと言われると『無理です』『できません』と言ってしまいがちです。だけどやってみると必ずできるんですね。『こうだったらできるんじゃないか』と分かることもあるので、無理だと言わずに、『やってみればいつしかできる』という気持ちを大切にしてほしいです。私も、忙しくなると『やりたくないな』『面倒だな』と思うこともあります。でも、手を抜くと『いつもと違うじゃないか』という不満につながる。だから常に同じものを出すようにしています。自分の店だからそうできるのかもしれませんが、アルバイトの人にもそういう気持ちを汲んでもらえるように指導してあげればいいかなと思います」

かつて不慮の事故にあい失意の底にいた原さんだが、今は「あの事故がなければ『アイノワール』も、このオムライスも生まれなかった」と前向きにとらえている。『アイノワール』という店名は、気持ちを前向きにさせてくれた黒にんにくを表すフランス語の「Ailnoir」と、「愛のある」という日本語をかけ合わせて名づけたもの。どんなに人気が高まってもおごったり手を抜いたりせず、愛のある丁寧な仕事を続けることで、お店のファンを増やしているようだ。

店内は温かみのある雰囲気

『サンテカフェ アイノワール』
住所/東京都杉並区高円寺南2-37-13 ハイム山川1F
電話番号/03-5929-7210
営業時間/11:30~14:30、17:00~20:30
定休日/水曜(火曜は昼のみ営業)
席数/18席

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三原明日香

ライター: 三原明日香

編集プロダクションに勤務し、フリーライターとして10年以上活動。ふとしたことから労働基準法に興味を持ち、4年間社労士の勉強に打ち込む。2014年に試験に合格し、20年4月に開業社労士として独立した。下町の居酒屋で出されるモツ煮込みが好物。