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約500人前の料理をタダで提供。『餃子の王将』の「福井豪雪美談」、3月1日に従業員を表彰へ

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雪で立ち往生した自動車のドライバーに対して約500人前の料理を無償提供した『餃子の王将 丸岡店』

『餃子の王将 丸岡店』(福井県坂井市)の従業員が、折からの豪雪の中、国道8号上に立ち往生した自動車のドライバーに対して約500人前の料理を提供したことは、大きな反響を呼んだ。運営する株式会社王将フードサービス(本社:京都市山科区、代表取締役:渡邊直人)では、関係した従業員に対して社内表彰することを決めた(3月1日付け)。一連の行動は、飲食店経営のあり方について深く考えさせるものであり、同社に経緯やその後の状況について聞いた。

「王将人」として今、何ができるかを考え、無償提供を実施

丸岡店の従業員による料理の無償提供の経緯は、同社の説明によると以下のようであった。

2018年2月6日、福井県地方は豪雪のため丸岡店は臨時休業とした。翌7日、中山幸紀副店長(41)は店舗の現状等確認のため出勤し、降雪で駐車場をはじめ店舗が利用できず、当日配送予定の食材等も届かず、多くの従業員が出勤できない状況を確認。その上、店舗の前を走る国道8号線が前日から1500台ほどが立ち往生となっていることを把握した。

こうした状況下、中山副店長の過去の体験、飲食に携わる「王将人」として今何ができるのか、何をしなければならないかを考えた結果、車内に閉じ込められているドライバーに少しでも温かい料理を届けることを思いついたという。

そこで、上司である的場エリアマネージャーに電話で申し出。的場氏は「状況を踏まえてとても良い提案と判断し、従業員及び設備等の安全を確認した上で速やかに承認」し、その旨、会社に報告している。

これを受けて中山副店長ら丸岡店のスタッフは同日12時過ぎから18時頃まで4名(社員2、パートタイマーほか2)で、翌8日は12時前から17時頃まで10名(社員3、パートタイマー7)で炒飯、ラーメン、天津飯、鶏の唐揚げなどを配った。思いがけない提供を受けたドライバーからは感謝の言葉が多く寄せられたという。なお、ドライバーにはその場で好きな料理を選んでもらう形にした。

中山副店長は「こんなに一気に作り続けることは普段もない。歩いて持っていくのも一苦労でしたし、疲れました」(朝日新聞電子版2月7日付け)と取材に答えている。

炒飯、ラーメン、天津飯、鶏の唐揚げなどが提供された

賞賛の声続々「涙が止まらんだろう」「人間っていいものですねぇ」

こうした経緯がメディアで伝えられると、ネット上では賞賛の声が上がった。「心も身体も弱ってる時になぁ、ホカホカのチャーハン出されたらどうよ。涙が止まらんだろう」、「立ち往生している場所まで料理持って歩いて行くってのがすごいよな。500人分の料理運ぶのは相当な労力だと思う」、「いい話だなあ。人間っていいものですねえ」など、匿名形式の大型掲示板では讃える声が次々と書き込まれた。

同社にも直接、声が届けられた。「お客様、取引先をはじめ、多くの方々から、お褒め、激励等の言葉を頂戴いたしました」(同社広報部)。

今回の行動のきっかけが中山副店長自身の23年前の阪神大震災当時の記憶であることが、感動を倍加させる要因になったと思われる。当時、中山氏は兵庫県川西市の『餃子の王将 多田店』でアルバイトをしていたが、震災当日、店長の発案で店を開け、困っていた客が喜んで食事をする様子を目にした。「飲食をやっているなら、こういうときは人のためにやらないと」(朝日新聞電子版2月7日付け)と思ったという。

渡邊社長が従業員一人一人に電話、3月1日に社内表彰

同社では渡邊直人社長が、従事した従業員一人一人に電話をかけ、感謝の言葉とともに健康・安全に留意するよう話した。その後、3月1日付けで社内表彰を決めたのである。

同社では2017年4月に経営理念を刷新したばかり。そこには「社会への貢献」が明記され、さらに社会的使命として「より多くの人に『幸せ』を感じてもらう事を使命とします」と掲げている。そうした会社の方針に緊急の現場で対応できたことが、社内での高い評価に繋がった事は想像に難くない。

同社広報部では「当社の社会的使命、王将10訓の体現であり、目の前の困っている人に対し、人として、飲食店に携わるものとして考え、行動に移した従業員がまた1人、育っていることを誇りに思います。今回の心温まる丸岡店での行動を、全従業員にも伝えるべく、社内通達を発信しました」としている。

会社とは営利を目的とする社団法人である。そのため、料理を無償で提供すること自体は会社の目的とする行為ではない。しかし、社会に貢献することは、企業の重要な存在価値でもある。中山副店長の「飲食をやっているなら、こういうときは人のためにやらないと」という言葉は、多くの飲食店関係者の胸に響いたのではないだろうか。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/