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惜しまれつつも閉店した名店4選。飲食業界に広がる店主の「高齢化問題」

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画像素材:PIXTA

近年、店主の高齢化と後継者不在による飲食店の閉店が相次いでいる。なかには半世紀を超えてお客に愛され続けた「名店」もあり、ファンからは惜しむ声も聞かれる。今回は、そんな惜しまれつつも閉店した4つの名店を紹介していく。

美空ひばりや長嶋茂雄が愛した洋食屋『キッチン・ボン』

恵比寿には老舗といわれる洋食屋が数軒あるが、際立っていたのが『キッチン・ボン』だ。大正5年生まれの初代店主が昭和33年から店を切り盛りし、奥さんと息子3人が補佐をする家族経営を続けていた。

一番人気はボルシチで、初代が満州国・大連の大和ホテルで旧帝政ロシア皇帝直属の料理長から直々に教わった逸品。その味に惚れ込み、美空ひばりは20歳から、長嶋茂雄は巨人入団2年目から通っていたという。店内には時間のズレた壁時計が最後まで掛けられていたが、美空ひばりからの贈り物だったそうだ。

高齢の初代に代わり2代目になったのが、初代の補佐に長く就いてきた長男だった。ボルシチだけでなく、ボルシチに合うパンやカニクリームコロッケ、カツレツなど多くの人の記憶に残る味を提供し続けた。この数年は、高齢になった2代目店主に後継者がいないことを常連たちも危惧していた様子。2代目店主が病気になり、閉店が決まってしまったそうだ。

神保町で創業から60年続いた『天丼 いもや』

昭和34年に開業。創業当時の日本は高度経済成長期で、初代は多店舗展開をし、最盛期には天丼店に加え、天ぷら店やとんかつ店など7店舗があった。初代社長の奥さんが2代目社長を引き継いだが、高齢になったため、近年は娘さんが社長代行に就いていた。

天丼はどんぶりからはみ出るほどのボリューミーな天ぷらが特徴で、セットのシジミの味噌汁も常連からは「いもやと言ったらこれ」と親しまれていた。時代が変わっても、「ご飯多め」「エビ1本追加」「イカは抜いて」といった個別の注文を伝票を使わずに受け、確実に提供。最後まで初代の「集中力を持て」という教えが継承されていたからできていたという。

2代目社長の高齢に加え、会社に体力があるうちに幕引きをしたい、飲食店が増えたし、コンビニ弁当まで美味しい時代になった……など、さまざまな思いが重なり、閉店を決心したそうだ。

「ワセメシ」のひとつ、昭和中華の店『西北亭』

学生の街、早稲田には「安い」「旨い」「多い」の三拍子がそろった「ワセメシ」と呼ばれる料理を提供する飲食店が数多く存在する。「都の西北 早稲田の杜に」で始まる早稲田大学の校歌にちなんだ店名の『西北亭』は、ワセメシを象徴する老舗だった。

看板メニューは、鶏ガラにほんのり生姜の効いたスープが特徴の昔ながらの中華そば。そして常連たちに人気だったのは、「チャイナチャーハン」だったという。店主が高齢になっても豪快な音を立てて作っていたというそのチャーハンは、ニンニクが効いていて、ネギの代わりにニラが多めに入っていて、クセになる味だったそうだ。

近年は、学生よりもサラリーマンに客層がうつり、早稲田の町中華的存在になっていた。また、OB・OGも多く来店していたようで、「高齢になっても調理に配膳に奮闘する姿が見られて嬉しかった」「自分もがんばろうと思った」という声も。学生の第2の故郷のような存在だったのだろう。

ビブグルマン獲得、二子玉川『とんかつ大倉』

1974年創業、地元はもちろん遠方からのお客も絶えなかった『とんかつ大倉』。ミシュランガイド(ビブグルマン2015-2017)に掲載された店としても知られていた。

一番人気は、1日5〜7食限定の千葉産の林SPF豚の最高部位を使った「特ロース定食」だった。この特ロース定食を一度は食べたいと思う人たちが開店前から行列をつくる様子は、同店の風景のひとつになっていた。また、とんかつの真ん中の断面を上にして、食欲をそそるピンク色の揚げ具合を見せるのも、同店ならではの盛り付けになっていた。閉店が決まってからは、開店前の行列はより長くなっていたそうだ。

43年の歴史に一度はピリオドを打ったものの、約1年後、先代からの味を引き継いだ息子さんが千葉県に出店。新たなファンを獲得しながら、名店の味を守り続けている。

店主の高齢化・後継者不在で廃業してしまう店舗のうちの半分くらいは、黒字でまだまだ生産性も十分にあるといわれる。この状況を重く見た政府は、廃業せずに事業承継ができるように、「事業承継支援」として引き継ぎ先の紹介から引き継ぎ後のフォローに取り組み出した。歴史と愛のつまったいくつもの名店が、令和の時代でも輝き続けていくのを期待したい。

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岩﨑美帆

ライター: 岩﨑美帆

1982年生まれ。NPO活動に没頭した 大学時代、塾講師、広告営業を経て、フリーライターに。食・健康・医療など生と死を結ぶ一本線上にある分野に強い関心がある。紙媒体、Web媒体、書籍原稿などの執筆の他、さまざまな媒体の企画・構成の実績がある。好きな言葉は「Chase the Chance!」