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2度ロックダウン経験、イタリア『TOKUYOSHI』徳吉洋二さんが考える「料理の本質」

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再ロックダウンを見越して

2020年10月28日からミラノは2回目のロックダウンとなり、『TOKUYOSHI』はまたレストランの休業を余儀なくされた。そして再び、できることは『BENTŌTECA MILANO(ベントウテカ ミラノ)』などデリバリー事業だけになった。

「『BENTŌTECA MILANO』では10月に通販サイトをオープンさせ、11月からは『BENTŌ TOUR(ベントウツアー)』を始めました。『ベントウツアー』は、弁当をイタリアの地方都市にクルマで持ち込んで売るサービスです。これらは再ロックダウンが起きることを見越して準備していました。事前にInstagramなどのSNSで日付と場所を告知し、その日の朝にミラノの店舗で料理を作ってお昼に移動、午後から夜にかけて現地で販売してミラノに戻るの繰り返しです。一度に250食くらい作って持っていきました。最初はミラノ近郊の都市に、遠いところではフィレンツェまで行ったこともあります」

『TOKUYOSHI』で弁当を作る徳吉さん

ミラノの『TOKUYOSHI』には、日本に姉妹店がある。2019年にオープンした東京・神田の『Alter Ego(アルテレーゴ)』。シェフは『TOKUYOSHI』で徳吉さんの右腕だった平山秀仁(ひらやま・ひでひと)さん。「Alter Ego=分身」という意味の、カウンター9席のレストランだ。イタリアで日本料理を作り、同時に日本でイタリア料理店を経営していることが、イタリア料理を作る意味を徳吉さんにさらに深く考えさせることになったといえるかもしれない。

「『Alter Ego』は、『TOKUYOSHI』とちょうど逆のスタイルです。つまり、イタリア食材で日本料理を作る『TOKUYOSHI』に対して、『Alter Ego』はイタリア料理をすべて日本の食材で作っています。いま日本では、ラディッキオのようなイタリア料理の良い食材がすでにたくさん生産されています。イタリアから食材を持ってくるより、そちらの方がずっと美味しくて価格も手頃にできる。

日本でできるイタリアンって何だろうと考えたときに、自分の周囲の食材でどうやって料理を作っていくかを考えた方がよいのではと思いました。コンセプトに適した食材をどうやって見つけ、どうやって自分の料理にするかが、今後はより重要になってくると思っています」

『BENTŌ』の一例。牛骨髄の炭焼きの上には烏賊の塩辛。これらをトーストした食パンに載せていただく

「先日ある人と、クチーナ・トラディショナル(伝統的料理)とクチーナ・ティピカ(典型的料理)の違いの話になったんです。この二つは、似ているけれど違います。トラディショナルとは『その地方で提供され、その地方でいただく郷土料理』。それに対してティピカは『家庭でよく作られている料理、カジュアルで大衆的なもの』を指します。僕の料理はティピカです。みんな知っていて、よく食べられている料理。『ティピカ・クチーナ・ジャポネーゼ(典型的日本料理)』ですね」

料理と真に向き合うために、自分が得意なものを伸ばす

「僕はこれまで、日本人がイタリア料理を作ることにすごく意味があると思っていました。イタリア料理をやっている自分がかっこいいと思っていた。それなのに、今の料理の方がゲストの反応が明らかに強く、リアルです。料理に対する情熱を自分に向け、自分の作品として作っていた時代より、今の方がゲストの共感を得られるようになったのです」

徳吉さんには、今あたためているプロジェクトが二つある。ひとつは「出会ってしまった」と語るポルトガルのマグロの販売、もうひとつはパンを作って売る店。イタリアで屋内での飲食店営業が再び許可されたときには、それらのプロジェクトとともに、新たな装いの『TOKUYOSHI』も始動する。

「ファインダイニングは『経験』だと思います。食べるという『経験』を売ること。『経験』を提供することがファインダイニングだと思っています。美術品や映画を見て、それが自分の経験となるように。料理に明確なシェフのアイデアがあって、ゲストが食べて美味しいと満足できるもの。5ユーロのパニーニでも40ユーロの鳩のローストでもいい。ゲストの感動の大きさは、料理の価格には比例しないのです。その料理にどんな思いがこめられているか、どのように工夫されているのかを、ゲストに言葉で説明できることが重要です。その土地にあるものを使って、自分が慣れ親しんだ料理を作る。そこに価値があると思うし、料理人の本質もそこにあるんじゃないかと僕は思っています」

変わらないために、変わり続ける。徳吉さんにとって変わり続けることは、これからも変わらず料理を作り続けるために必要なことなのだ。

『TOKUYOSHI(トクヨシ)』『BENTŌTECA MILANO(ベントウテカ ミラノ)』
住所/Via San Calocero 3,20123 Milano,Italy
電話番号/+393408357453
席数/32
https://www.ristorantetokuyoshi.com/homeit

『Alter Ego(アルテレーゴ)』
住所/東京都千代田区神田神保町2丁目2−32
電話番号/03-6380-9390
席数/9
https://alterego.tokyo/

徳吉洋二(とくよし・ようじ)
1977年、鳥取生まれ。東京の調理師専門学校卒業後、2005年に渡伊。モデナの名店『オステリア・フランチェスカーナ』でマッシモ・ボットゥーラ氏の右腕として9年間勤め、2013年に退職。2015年に『リストランテトクヨシ』を開業。

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うずら

ライター: うずら

レストランジャーナリスト。出版社勤務のかたわらアジアやヨーロッパなど海外のレストランを訪問。ブログ「モダスパ+plus」ではそのときの報告や「ミシュラン」「ゴ・エ・ミヨ」などの解説記事を執筆。Instagram(@photo_cuisinier)では、シェフなど飲食に携わる人のポートレートを撮影している。