コロナで変化した飲食店の出店事情。三軒茶屋など「住宅エリア」の物件人気が急増
新型コロナウイルスの影響により飲食店の「物件」の在り方は大きく変わった。これまで成功しやすかった「繁華街の駅近物件」でも、人の流れが減ったことで集客に苦戦。家賃が高い分、厳しい経営を強いられている店舗も多いだろう。
こうした状況を受け、飲食店の物件需要はどのように変化したのか。飲食店.COMが調査したデータから探っていきたい。
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小規模店舗の需要が増加、中規模店舗は減少
まず、飲食店.COM「店舗物件探し」に登録された飲食店向け物件に対する、出店希望者の問い合わせ状況を見ていく。問い合わせ数が多いほど、出店に向けて活発に動いている状況であると言える。
グラフを見ると、左端の2020年4月頃が最も下がっており、昨対で30~40%ほどに落ち込んでいる。ちょうど1回目の緊急事態宣言が発出された頃であり、出店に対してリスクを感じていた出店希望者が多いのだろう。しかし、その後は順調に回復し、2020年10月以降の問い合わせ数は昨対比100%を超えている時期もある。
次に、飲食店.COMに登録された物件の数を「賃料」別で見ると、2020年4月~7月頃は賃料0~10万円、10~20万円、20~30万円の比較的小規模な物件の登録数が減少。逆に賃料30~40万円、40~50万円の中規模店舗の比率が増加している。これは小規模物件より中規模物件の方が、市場に出回り始めたということだが、コロナ禍でも小規模店舗は持ちこたえやすいのに対し、中規模店舗は家賃等のランニングコストがかさみ、手放さざるを得なかったことが推察される。
同様に登録されている物件の「坪数」別の推移を見てみると、0~10坪、10~20坪の小規模物件の登録数の比率が減少し、20~30坪、30~40坪、40~50坪といった中規模物件の登録数の比率が増加していることがわかる。小規模物件の供給が減っているだけに、個人が飲食店を出店する際の物件をめぐる競争は、今後、激化することも考えられる。
立地は「オフィス・商業エリア」から「住宅・郊外エリア」へ
飲食店物件を選ぶ際の重要な条件の一つに、立地が挙げられる。コロナ前は駅近などの利便性に優れた場所が人気であったが、コロナ禍でこうした需要にも変化が訪れているようだ。
東京都内の駅別の物件問い合わせ件数を見てみよう。2019年度、2020年度で各駅の問い合わせ数を比較してみると、数が大きく増減した駅がいくつもあった。
問い合わせ件数が減少したのは、赤坂や新橋、新宿などのオフィスエリア、浅草や六本木などの商業エリアである。外出自粛により観光やショッピングの需要が減ったことや、テレワークの導入でオフィス街の人の流れが少なくなったことが原因だと言える。
一方、問い合わせ件数が増加しているのが、自由が丘や三軒茶屋、目黒、荻窪などの住宅地エリア。さらに国分寺などの郊外エリアも同様に増加した。住宅地・郊外エリアの店舗は、外出自粛をしている人々やテレワーカーたちからの需要も高い。デリバリーや通販の展開を視野に入れる場合は、駅から遠くてもデメリットになりにくいため、利便性を重視しない開業希望者も増えているのだろう。
コロナ禍の影響を受けにくい業態が人気
最後に、業態別の物件問い合わせ件数を見ていく。これまで人気の高かったラーメンを始め、和食、中華、イタリア料理などほとんどの業態において問い合わせ件数が減少している。コロナ禍で通常営業がままならない状況では、当然と言えるだろう。
逆に大きく増加しているのが焼肉業態だ。焼肉店は換気設備が整っているほか、客席同士の幅にも比較的ゆとりを持てることから、コロナ禍の影響を受けにくいとされている。
そのほか、お弁当・惣菜・デリも問い合わせ件数が増加。店内利用が難しい今、テイクアウトやデリバリー主体の業態に人気が集まっているようだ。また、テレワーカーの増加に伴い、作業スペースとしても利用できるカフェの需要も高まっている。
コロナ禍では、より一層の臨機応変な経営が求められる。そんな中で、小回りの利く小規模店舗や、時代の流れに合わせた業態を選ぶことはとても重要だ。今後、飲食店の物件を探す場合は、自身の希望条件だけでなく、こうしたデータも参考にしてみるといいだろう。