なぜ若者は『鳥しき』を修業先に選ぶのか。「鳥しきICHIMON」の若手育成術
焼鳥好きな素敵な客を繋いでいきたい
営業中、池川さんは近くに立つ若手を指導してきた。例えば、グラスが空になりかけている客に声をかけなかったときはその場で注意する。それを見た客が帰り際、大将がいないところで「頑張りなさい」と若手に声をかけてくれることも少なくない。また、『鳥かど』に来た客から「焼きが良くなかった」と指摘されることもある。
「ともに有り難いお客様だと感謝しています。お客様の中には独立した子の店にも通ってくださる方もお見えです。ファンを増やしたいし、繋げていくことに意味があると思っています」
今度、バンクーバー在住の台湾人が『鳥しき』に来る。食事に来るのではない。バンクーバーで焼鳥屋を開業するため、焼きを習いに来るのだ。弟子というよりも門前の小僧かもしれない。けれど、焼鳥好きを少しでも世界に広げたいと大将は考えている。
「焼鳥の技をバンクーバーの彼にも伝え、カナダの人を満足させてくれれば嬉しいですね(笑)」
『鳥しきICHIMON』が焼鳥を世界に広めていく
『鳥かど』を始めた2023年2月にホームページを刷新。『鳥しきICHIMON』を標榜するホームページへと進化させた。
「柔道が世界中に普及していったように、焼鳥文化も世界に広めたい。そんな思いもあり、『鳥しきICHIMON』を名乗らせていただくことにしました」
2019年に『鳥しき』に入店した大平貴紀さんは、メキシコでシェフをしていた経験の持ち主。現在、『鳥かど』店主を任されているが、将来メキシコで焼鳥屋を始める夢を抱いている。
また、2020年にはニューヨークに『鳥えん』をオープンさせた。3人の弟子がアメリカへ渡り腕を振るっている。さらに今夏、『鳥しき』が上海に上陸する。『鳥かど』の狩野汰成(たいせい)さんが店主に就任する。
焼鳥文化の世界に広げる『鳥しきICHIMON』は現在6店舗。15人の職人を抱えている。職人は焼きを任せられる人を指すと思っていたが、そうではないと池川さんは語る。
「『鳥しきICHIMON』門下に入った時点で職人として扱います。皿洗いもビールを注ぐことも焼くことも職人の仕事。満足に皿を洗えない子は美味しい焼鳥を焼けません」
焼鳥屋にとって焼きが花形のはずだが、追い回しと呼ばれる雑用も大切だと池川さんは言い切る。修業時代、池川さんは追い回しを1年務めたことで感覚が研ぎすまされた。
「焼いている最中、後方から聴こえてくる音でいま何が起きたのか感じとることができます。鳥の状態も炭の燃え具合も日々異なるし、炭の組み方も変わります。そういうことに気づけるようになったことで、お客様に満足していただけるようになったと自負しています」
