『ラス』兼子大輔さんが考える、飲食店の「利益率」と「労働環境」を改善する最初の一歩
自分の強みは何なのかを突き詰める
兼子さんが現在のようなシンプルな料理を出すきっかけになったのは、20歳の頃に『コートドール』(三田)の料理に出会ったことだという。
「『コートドール』の料理、理屈はわからないけどめちゃくちゃうまいって思ったのを覚えています。シンプルな見た目の中に美味しさが詰まっていた。フランス料理の中でも自分が好きなスタイルの料理に若い頃に出会えたのは、僕にとって幸運でした。
その後、『コートドール』で働いてわかったのは、手間とゲストの喜びは比例しないということでした。手間がどれくらいかかるかはゲストには関係ないんです。僕にはその経験があったから、シェフになって自分が飾りのない料理を出すのにためらいはなかった。もし『コートドール』で働いていなかったら、僕も今みたいな料理を出す勇気はなかったかもしれないです。
その後の『サンドランス』(パリ)での経験やネオビストロブーム(2010年頃から始まった本格的フレンチをリーズナブルに提供するムーブメント)の影響を受けて、カジュアルな食材で仕組み化してクオリティを落とさずスピーディに料理を出す、今のスタイルに行き着きました。
いろんなことをシンプルにしたい。頭の中も、家の中も。ごちゃごちゃしているのが苦手だから、家にも自分のものがあまりないんです」
「僕がこうやって作ってきた仕組みや考え方を、パーツで切り分けて使ってほしい」と兼子さんは言う。
「みんな努力しているのに料理業界の利益率や収入がほかの業界に比べて低いのは、努力が足りないのではなく、改善の余地が構造自体にあるということです。コースメニューの作り方や原価のかけ方、コストと業務量のバランスなど、こういう場で伝えることで少しでも誰かの力になれたら嬉しいなと思います。
全体を最適化できているかは、夢を追い求めるのと同じくらい大事です。そこがコントロールされていれば良い人が採れるし、良い人が採れれば良い料理が作れて、より良い方向に進んでいく循環ができると思います」
「みんなが幸せになる循環を作る」。兼子さんのこのスタイルは、今後の料理に携わる人々の意識を変えていくヒントを秘めている。
『L'AS(ラス)』
所在地/東京都港区南青山4丁目16-3 コトリビル1F
電話番号/080-3310-4058
席数/65
https://las-minamiaoyama.com/
兼子大輔(かねこ・だいすけ)
1979年生まれ。広島県出身。大阪『ラ・ベカス』、東京『コートドール』等での修業を経て渡仏、カオール『バランドル』、パリ『サンドランス』で勤務。2009年、麻布十番『カラペティバトゥバ!』のシェフに就任。2012年『L'AS(ラス)』をオープン。ディナーコース5,250円という価格設定が話題となる。翌年現在地に移転、同じ敷地内にワインレストラン『コルク』をオープン。

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