大衆焼肉ブームの火付け役『コグマヤ』。坪月商40万円を実現する経営術に迫る!
熱意優先!素人同然からの挑戦が実を結んだ理由とは?
『コグマヤ』1号店は2016年中野に出店した『大衆酒場コグマヤ』だ。当時は古典酒場から大衆酒場ブームへの移行期で、その流れを敏感に先取りした。そして翌2017年には池袋に『大衆焼肉コグマヤ』をオープン、月商750万円の大人気店に押し上げた。瞬く間に焼肉業態に新風を巻き起こした高橋氏だが、実は素人同然のキャリアからのスタートだったというから驚きだ。
「それまでバーを約10年間経営していましたが、料理に関しては全くの素人でした。『大衆酒場コグマヤ』の一推しメニューは煮込みですが、なぜなら開店当初は誰も焼き物の経験がなかったから。だったら『煮込みしかないだろう』と(笑)。大衆酒場ブームが来るのは確信していたので、とにかく一刻も早く開店しようと決断しました」(高橋氏)
生来の大衆酒場好きの高橋氏だけに成算は十分だったそうだが、さすがに経験不足を補うための研究は必死に行なった。とにかく評判の良い酒場、やきとん店、ホルモン焼き店などに足しげく通い、「これだ」とひらめいた安くておいしい食材をひたすら探した。その研究は全国数百件のメニュー解析にまで及び、気が付いたときには肉やホルモンに対する知識と多くの仕入れ先情報が蓄積されていたという。
「そうしているうち、焼肉と大衆酒場を融合させたら面白い業態が生まれるとひらめきました。豪華なカルビではなく、ホルモンや切り落としなど『安くて旨い』を売りとする、居酒屋形態の焼肉店です。一品メニューと一緒に楽しめて、かつワンコインでお釣りが出る価格帯なら、新しい客層を開拓できると強く思ったのです」(高橋氏)
この高橋氏の「確信に近い思い」は、こうして『大衆焼肉コグマヤ』として結実した。内外装からメニュー構成まで、高橋氏がほぼ一人で決断。昭和レトロの雰囲気を前面に出し、肉は往年の煙モクモクのガスロースターで焼かせる。煙いからいや、狭いからだめ、といった客層は最初から狙わなかった。
『コグマヤ』は高橋氏が演出する、煙いけど旨い焼肉劇場だ。お客もキャベツだれを作り、劇に参加する。常連客の合言葉は、焼肉を食べに行こうではなく「『コグマヤ』に行こう」。だからこそ「常連さんは服装で分かります」と高橋氏が目を細めた。
「『コグマヤ』のメインターゲットは自分自身でもあります。自分が求める焼肉店を思い切り展開したら、幸いお客様も自分の熱意に応えてくれました。もちろんデータも活用していますが、業績が上がっている間は自分の決断力も大切にしたいと考えています」(高橋氏)
肉1グラムにこだわる細やかな改善で、原価率約32%を達成
現在各店舗の客単価は約4,000円で、池袋店開店当時の約3,000円から順調に業績を伸ばしている。また坪月商は3店舗平均で約40万円を達成している。創業当初は約35%かかっていた原価率も、現在の約32%にまで緩やかに下げてきた。
売上の伸長はもとより、メニューの改善、1グラム単位でこだわった盛り付けの工夫など、細やかな努力の成果である。もっとも「店を満席にするための努力が先であって、原価率はそこから調整するのがコグマヤ流」とはっきり語るのが、いかにも高橋氏らしい。
「例えば『名物ジンギスカン』は、原価率に約50%近くかけています。羊肉好きである自分のこだわりもありますが、店の看板メニューである以上、味的にも見栄え的にも譲れない一線がある。値付けの正解とは、お客様に満足してもらえる範囲の金額があるとして、その上限に設定することだと思いますが、ジンギスカンだけは数字よりも熱意を優先しています。帳簿を見る度にゾッとしますけどね(笑)」(高橋氏)
一見大らかに見えるコグマヤ流経営術だが、もちろん理論原価は歩留まりを含めて月次でしっかり出している。オーバーしている数値があれば、理論原価と商品の出数を追い修正を怠らない。
ガスロースターに昭和レトロな調度類は、店のコンセプト・アピールと、経費削減の両面を実現している。高橋氏曰く「コロナ禍を経て20歳代の客層が増えて来た」とのこと。若い世代には、むき出しのテーブル、ビニール椅子、机替わりのホッピーケースなど、ノスタルジックな空間が好評だという。そして煙が立ち込める空間を楽しみながら、名物ドリンク「究極レモンサワー」(495円)をおじさんよろしく流し込む。こうして今日も、高橋劇場の新しい常連客が誕生する。
「昭和レトロの内装にコストはかかりません。椅子も端が破れたものをそのまま使用しています。その方がノスタルジックだと好評なのですから面白いですね。経営的にはコストダウンが図れ、思わぬ恩恵を受けました(笑)」(高橋氏)
