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ハラールが非ムスリムの客も呼び込むことも。コロナ後の成長戦略“逆転の発想”

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ムスリムとの共生を考える守護氏(左から3人目)

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「ハラール(Ḥalāl)」を扱う飲食店が、コロナ後も順調に増えている。ムスリム(イスラム教徒)対策オンリーと思われがちだが、実は新規顧客獲得に大きな力を発揮する。コロナ禍を乗り越えたハラールを扱う企業の好調さ、今後の見通しについてハラールに関連するコンサルティング業を行うフードダイバーシティ株式会社代表取締役・守護彰浩氏に聞いた。

ハラール店舗の好調の理由

コロナ禍以前の2019年まではインバウンドが活性化したことでインドネシア、マレーシア、中東などのイスラム圏やムスリムを一定数含む国からの訪日客が劇的に増加し、必然的にハラールを扱う店舗も増えた。農林水産省の資料によると、コロナ前の2019年3月時点でムスリムに配慮した外食事業者は880社で、そのうちハラール認証を受けた事業者は242社に及ぶ。ハラール認証とは、その認証期間が対象となる商品やサービスをイスラム法に則って生産、提供されているかを監査して基準を満たしていると認めることで、認証を受けた店舗では店頭にその認証を掲げる。

これらの店舗の中には日本人客を対象とせず、訪日ムスリムと国内在住のムスリムに特化した店舗も存在した。台東区浅草に存在したラーメン店『成田屋』(すでに閉店)はその代表格。日本人客はほとんどいなかったと言われ、筆者が2019年に訪れた際に日本人客は筆者1人だけであった。ところがコロナ禍で2021年には訪日客がコロナ前の2019年の100分の1以下となり、そうした店舗の多くは苦境に陥った。『成田屋』もその例から漏れなかった。

2022年から徐々に訪日客数が回復し、2023年は1月から11月までに2,233万人余を記録。コロナ前の2019年の2,935万人余の76.1%までに戻った(訪日関連の数値はJNTO=日本政府観光局発表)。こうした状況を踏まえ、守護氏は「今(2023年末)、飲食店と訪日客の数が合っていないせいで、ハラールをやっている店は非常に儲かっています。コロナ禍でハラールを扱う店の何割かが閉じてしまったため、生き残った店に多くのお客さんが行っているという感じです。本格的に訪日客が回復した2023年9月以降は、店舗から嬉しい悲鳴が届いています」と話す。

フードダイバーシティ株式会社代表取締役・守護彰浩氏

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非ムスリムを呼び込む必要性

ハラールの店舗が減ったところに訪日客が回復したので需要が供給を上回っている状況であるが、コロナ後、特に意識すべきはハラールがムスリム以外にも決定的な集客能力を発揮することである。

ハラールとは「イスラム法で合法」の意味で、ムスリムも食べることができる食材のこと。多くの日本人が誤解していると思われるが、ハラール(食材)は「ムスリム専用の食事」ではない。「非ムスリムもムスリムも食べられる食事(食材)」で、このことはハラールを考える上で重要な意味を有する。

豚肉やアルコールはムスリムにとって禁忌であることはよく知られている。牛肉や鶏肉も宗教の教義に従って処理された食材だけがハラールで、そうではないものはムスリムにとってハラーム(禁忌)となる。

多くの日本人にはハラームかハラールかは食べる上では関係がない。たとえば牛肉であれば、食肉にする際に通常の処理ならハラームで、「アッラーアクバル(アラーは偉大なり)と唱えながら、教義に従った方法で処理すればハラールである。結果、客の前に出てくる肉にハラームとハラールで全く差異はない。アルコールが入る酢や味醂は使用できないが、純米酢など無添加の酢やハラール認証のある酢、ハラール認証のある味醂風調味料は使用できる。そうなると、ハラールの店舗に日本人が入っても当該店舗がハラール対応をしていることに気付かない可能性はある。

ムスリムは自国のサイトを利用して日本でハラール対応をしている店舗を見つけてから来日することが多く、ハラール目当てで入店する。一方、多くの日本人は単純に「この店は美味しいから」と考えて暖簾をくぐる。つまり、文化的宗教的多様性を持つ顧客に対応している店舗は、訪日客がほぼゼロになったコロナ禍でも日本人客で持ち堪えることができたのである。

「その部分はまさに私がコロナ前から警鐘を鳴らしていた部分です。訪日客に特化した店舗は全部ではありませんが、やっていけなくなってしまったところもあります。結果を出している店舗は『ムスリムも、日本人も』という混合型をとっています。パンデミックみたいなものは今後も起きると思います。当社がコンサルティングする際には、最初はハラールについてなんとなく難しいイメージを持たれますが、豚とアルコールなしでいつも通りの料理を作ってくださいと伝えると、日本のシェフはしっかりと対応ができます」

なお、ムスリムには断食月(ラマダーン)があり、その期間は太陽が出ている間は水も飲むことができないため、その時期、ムスリムの客は1人も入らない。その期間中は旅行もしないことが多いため、訪日客に特化してハラール店舗を運営するのは、日本ではほぼ不可能と言われている。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/