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ハラールが非ムスリムの客も呼び込むことも。コロナ後の成長戦略“逆転の発想”

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打ち合わせをする守護氏

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アフターコロナの2つのポイント

飲食業にとってハラールはコロナ後の成長戦略の要ともなるシステムである。コロナ後のハラール市場の質的変化について、守護氏は2つのポイントを挙げる。

①ハラールの一般化と実用性の認識
②円安

■ハラールの一般化と実用性の認識
コロナ前は物珍しさからハラールの料理を食べてみたいという客もあったが、今ではそうした人は少なくなったという。ハラールと全く気付かない日本人客が多い中、増えているのが「集団の中にムスリムがいるので、ハラール対応の店でないと入れない」という客層である。

マレーシアは国民の60%程度、シンガポールは約15%がムスリムである。仮にシンガポールからの団体客10人がやってきたら、1人はムスリムの可能性がある。集団で食事に行く場合、ハラール対応をしていない店だと、その1人のムスリムが食べられないから旅行会社もその店を選ぶことはできないが、ハラール対応の店舗なら10人全員が食べられる。

「ハラール対応店にやってくるムスリムは、その集団の全員がムスリムである必要はありません。10人の団体でムスリムが1人でもいれば、その10人の客を獲得する可能性があります。訪日客だけではなく日本の企業のMICE(ミーティング、研修旅行、国際会議、展示会)でも同じです。その売上がハラールを導入した企業にとっては非常に大きいのです」

こうしたことは多文化共生、異文化理解が叫ばれる時代においては極めて重要。日本でも外国人を雇用する企業が増えたが、集団で会食する機会に一部の従業員が宗教上の理由から食べることができない事態になれば、その企業の多文化共生への理解が足りないと評価されかねない。人の行き来がこれまで以上に盛んになるアフターコロナで求められるのは、ムスリムも非ムスリムもウエルカムのハイブリッド型(守護氏)店舗ということになる。

■円安という追い風
②については、ドル円相場は2019年12月の平均で1ドル=109.29円であったものが、2024年1月5日には1ドル=144.64円と32%も下落した。コロナ前に訪日客が1万900円使って100ドルを支払っていたところ、コロナ後は1万900円を使っても約75ドル支払えば良い計算となる。自然と訪日客の財布の紐も緩くなる。

「円安が一気に進行したために客単価が上がっています。東南アジアからいらっしゃる方も『日本は安い』と言う方が多く、メニューの一番高い料理から頼んでいくという方が増えたという報告を受けています。ラーメン屋さんならトッピングはフルで、という方も多いようです」

守護氏がコンサルティングを行った台東区の居酒屋『博多前炉ばた 一承 東京上野』は客単価で5,000円から6,000円の店で、日本人客とムスリムの双方を集客するハイブリッド型。そこではムスリムのために1枚2万5,000円の神戸牛のステーキを提供している。通常のメニューであればハラールでも仕入れ値は変わらないが、神戸牛のハラールステーキのような希少な肉の場合はどうしても仕入れ値が高くなってしまう。それもあって、ムスリムだけに提供しているという。

「『一承』様は普通の居酒屋さんですが、ハラール神戸牛がかなり数が出ているそうです。以前、シンガポールからやってきた3人組が1人1枚ずつステーキを頼み、3人で8万円以上の会計になったと聞きました。コロナで訪日を3年間我慢したというのもあるのでしょう、富裕層が財布の紐が緩くなり、そうした消費をする方が増えてきた印象です。日本で有名なものを食べたというニーズが強いのでしょう」

ハラールが新規顧客を呼び込み、そこに円安の追い風が吹いた結果と言ってよさそうである。

ハラール神戸牛はお客様に示してから提供している(『一承』東京上野店の紹介ビデオ画面から)

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ハラールがアフターコロナの切り札に

少子高齢化、人口減少が続く日本社会において、急激に客や売上を伸ばすのは簡単ではない。しかし、唯一と言っていい成長部門のインバウンドを利用すること、また、進む多文化共生の意識も加えて、ハラールは成長力を秘めたコンテンツと言えるのかもしれない。

守護氏は「こうしたやり方は私が編み出したものではありません。海外のレストランでは当たり前のことです。海外は多民族国家が多く日本以上に多様化に対応しなければいけない土壌がありますから。ハラールだけ特別オペレーションにしてというのではなく、全部をハラールにしてしまうというのがほとんどです。日本も多文化共生が求められる時代ですから、きちんとそうした海外の事例は学ぶべきだと思います」と強調する。

アフターコロナは本格的な異文化との交流に備える必要性が高まるのは必至。ハラールのシステムはそうした時代の切り札になり得ると言って良さそうである。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/