「元祖・最強レモンサワー」の『素揚げや』、低アル戦略で“ストロング系回避”のニーズ取り込む
低濃度へのニーズは2018年頃から
『素揚げや』の低アルコール、ノンアルコール商品の大胆な導入という挑戦は大手酒造メーカーの動きに合わせて行われるように見えるが、そうではない。宮崎氏は実際に店舗で飲む客の傾向からして、低濃度へのニーズは6年前の2018年頃から感じていたという。
『素揚げや』がオープンした2013年はアルコール度数が高い商品に顧客のニーズがあった。通常のレモンサワーは提供時に度数7%程度で、氷が解けだすことで実質5%程度になる。ところが、最強レモンサワーの1杯目は氷が入っていないために飲み終わるまで7%のまま。常連客からは「これ、結構、効くんだよなぁ」「後でガーンと来て、それがいいんだよな」という声が多く、「レモンで口当たり良くて、強炭酸で、まさに時代を先取りしたものでした」と顧客のニーズに合っていることを実感していた。
「10年ぐらい前は店で大いに盛り上がって、急性アルコール中毒まではいかなくても、完全にへべれけになる人がたくさんいました。口当たりがいいから度数が高くてもぐんぐんと飲めてしまいますし、皆が集まって飲む時に『自分は酒に強い』というのを見せようとする部分もあったように思います」と当時を振り返る。
ところが、時を経るごとに飲酒の風景は変容していく。「今は逆にへべれけになるまで飲むことがカッコ悪いという風潮です。今の20代前半の方は本当に量を飲みません。スマートな飲み方をします」と飲酒習慣、文化の違いのようなものが現れてきたとする。「時期的にはコロナ禍(2020年)の少し前ぐらいからです。まずお客さんが杯数を飲まなくなってきたというのがあります。ほろ酔い程度で十分という方がとても多くなってきました。そして6年前(2018年)頃から『(最強レモンサワーは)美味しいけどすごく酔ってしまうから、薄めてもらえますか?』という声が女性を中心に多くなってきました。割合にして、全体の5分の1ぐらいでしょうか」と高い濃度を敬遠する声が如実に現れてきたという。
その上で「ここ1年ぐらい、YouTubeなどでストロング系の弊害が喧伝されるようになってきました。実際にアルコール依存症の方が飲まれているのは、医療機関などの調べでストロング系が多いということがデータ的に明らかになってきています。そこでメーカーが健康被害に関して考えるようになったと認識しています」と分析する。
そうした顧客からの声が徐々に高まっていき、昨年末から今年初頭にかけてメーカーの動きが顕在化したというのが宮崎氏の見解である。メーカーの動きの前にトレンドを掴んでいた宮崎氏としては、小規模店舗の特性も活用して、すぐに対応が可能であったということである。
飲めなくてもいいんです
ノンアルコール商品への期待も大きい。現在、ノンアルコールビールの市場は拡大する一方で、ノンアルコールのレモンサワー、ワインも市販されている。これまで居酒屋ではお酒が飲めない人のために烏龍茶などのソフトドリンクを提供していたが、ノンアルコールドリンクは、お酒が飲めない人が仕方なく飲むソフトドリンクとは異なる。矛盾する表現ではあるが「アルコールが入っていないお酒」という新しいカテゴリーと考えることができる。消極的に選ぶしかなかったソフトドリンクから、積極的に選ぶノンアルコールドリンクという位置付けと考えれば分かりやすい。
最後に低アルコール、ノンアルコールの商品の可能性について聞くと明るい展望を口にした。
「可能性は相当あると思います。低アルコール商品へのニーズはメーカーの動きから明らかです。その上で居酒屋というカテゴリーはお酒を楽しむ場所という、そういう常識を変えていく必要があります。飲めなくてもいいんです、ノンアルコール商品が充実していますから、お一人でどうぞというのが大事だと思います」
アルコール度数が低い、あるいはアルコールが含まれないドリンクに居酒屋の未来を賭ける逆転の発想。宮崎氏の柔軟な思考法に先に、明るい将来が待っているのかもしれない。
『素揚げや 本館』
住所/東京都江戸川区南小岩8-25-1 東洋ハイツ1F
電話番号/03-6806-9481
営業時間/火~土17:00~23:00(L.O.22:00)、日・祝17:00~22:00(L.O.21:00)
定休日/月・火・年末年始
『素揚げや 別館』
住所/東京都江戸川区南小岩7-28-11
電話番号/03-6458-9687
営業時間/平日17:00~24:00(L.O.23:00)、土16:00~24:00(L.O.23:00)、日・祝16:00~22:00(L.O.21:00)
定休日/不定休(年末年始以外は無休)
