世田谷代田『songbook』流、住宅立地の戦い方。目指すは「日常の延長にあるレストラン」
「新しい価値を創造している」再開発の地・世田谷代田にシンパシー
世田谷代田への出店を決めたのも、「食を通じた『価値』と『カルチャー』の創造」という、自身が描く飲食店への可能性とのシンパシーを感じたからだと、西氏は話す。
今、大きく変わろうとしている世田谷代田の街。老朽化した駅は美しく整備され、閑静な住宅地だった場所に新たな息が吹き込まれ、まさに新しいカルチャーが生まれようとしている。「何もないところに、新しい価値をつくる」 。そんな街の未来が、自身が掲げるレストラン像と重なったという。
「『Neki』がある日本橋兜町もそうでしたが、街が動き出そうとしているということは、土地に力があるということ」と、西氏。これからより人の流れが増え、住民の暮らしが変わっていく中で、時代やライフスタイルの変化に合わせた新たな食の喜びや楽しさを届けたいと、野心を燃やす。
ブランド確立に必要なのは「主体性」を持ってやり切る力
その西氏が属する株式会社イートクリエイターもまた、「食に関わるすべての人への感動体験の創出」をミッションに掲げている。名だたる料理人が多くジョインし、『Neki』はもちろん『Patisserie ease』や『BANK』など、数々の人気ブランドを企画・運営する同社。それらブランディングの成功の鍵は、「主体性」がシェフやシェフパティシエ自身に帰属することだと西氏は答えた。
「ブランディングできていると感じていただけるのは、個性がきちんと表現できている証です。そして、発見や驚きなど新しい価値を届けられているからこそ、お客さまが支持してくださるのだと思います。単にユニークであればいいのではなく、時代に即していること、さらに、料理人自身が店に描くビジョンをどこまでストイックに具現化し、同時においしさを突き詰められるか……、つまり“自分でやり切る力”が求められる世界です」
「いかに主体性を持ち、体現し尽くすことができるかが大切」と、西氏は繰り返した。
たとえば『songbook』でいえば、「薪火」というテーマや、それにフィットするミニマムな距離感、メニュー構成なども西氏自身が挙げたものだ。シグネチャーディッシュに日本人に馴染みのあるピッツァを取り入れ、ランチセットの提供やテイクアウトに対応する点にも「地元客に来てほしい」という一貫したビジョンが確かに映されている。
今、西氏自身も、店のスタッフには「主体性」を求めながら接しているという。トップダウンで指示を出すのではなく、スタッフ一人ひとりがお客や料理と向き合い、自主的に取り組むこと。それこそが日本の飲食業界の未来につながると考えるからだ。
「知識や技術は、ネットを開けば誰でも知れる時代です。だからこそ、自立した人材が必要。そんな仲間が増えれば、飲食店の可能性はもっと広がると思います」
