浅草天才焼きそばニュー小江戸「1か月で潰れる」から間もなく一年。人気YouTuber型破りの挑戦
芸人でYouTuberの喜島春樹氏(45)が2023年7月にオープンした『浅草天才焼きそばニュー小江戸』が間もなく開店1周年を迎える。メニューは焼きそばのみ、一般にリスクが大きいとされるサブスク、店のTシャツを着て来店したら永久にポテトサラダ無料など、無謀とも思える経営でスタートするも大方の予想を裏切る大健闘。成功の秘密は飲食の素人が成功するにはこれしかないという手法を採用した、大胆な計算とそれへと踏み出した勇気がある。
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浅草チカコが店先でお迎え
東京NSC(吉本総合芸能学院)出身の芸人で、YouTuberの喜島氏の焼きそば店は、現存する日本最古の地下街、昭和30年(1955)開業の浅草地下商店街の一角にある。その経営手法を聞くと、この業界の常識、経営の鉄則の類がガラガラと音を立てて崩れていくのを感じさせられる。
店頭に浴衣着用のマネキン「浅草チカコ」がお出迎え。4.2坪という手狭な店内で、メニューは焼きそばのみとした。開業後、1か月1万円、1年10万円でサブスクを実施、しかも証明書は貸し借り自由で、「天才焼きそば並盛り」(600円)を月に30日食べる客がいれば、店側は8,000円分の持ち出しとなってしまう。
焼きそばは創業74年の老舗・浅草開化楼から特別に卸してもらった高品質の麺を使用しており、600円の価格設定では無理があるのは明らか。さらに店舗で販売するオリジナルTシャツを着て来店したら、トッピングのポテトサラダ(100円)を永久に無料とした。飲食物の店内持ち込みも制限していない。
調理はもちろん、飲食店でのアルバイト経験すらないのに飲食店を開業した芸人・YouTuberにネットの反応は厳しく「1か月で潰れる」「舐めるな」などの辛辣な言葉が並んだ。そう思われるのも仕方のないところで、飲食業や店舗経営を少しでも経験した者からすれば信じ難い手法の結果、開業後、喜島氏は一度も事業収入から給与を受け取っていないという。YouTube等での収入がなければ、ここまで続くことはなかったのは明白である。
浅草開化楼の麺を使用
外からは破滅的とも思える経営を続ける喜島氏ではあるが、それでも1年近く続いているのには理由はある。その1つが「焼きそばがおいしい」ことである。実際に調理前の浅草開化楼の麺を1本、食べさせてもらったが、オリーブオイルと思われるほのかな香りが漂い、口に入れると歯応えがしっかりとしている。
これを軽くお湯で茹で、フライパンで焼いている途中にソースを数回分けて丁寧に味を染み込ませていく。キャベツは麺とは別に炒め、焼き加減を調整する。トッピングは目玉焼き(150円)、赤ウインナー(200円)、大豚肉(200円)を選択すれば彩りも鮮やかに仕上がる。
麺はじっくりと焼くため焦げ目ができて、ご飯のおこげのような風味。ソースがほどよく絡み、生で食べた時のようなしっかりとした歯応えそのままに、おこげの部分も加えて、うどんやそばを啜るのとは異なる「食べている」実感が持てる。
今のおすすめは、麺やトッピングにマヨネーズなどをかけて海苔で巻いて食べる「まきまき(のり)」(100円)。しっとりとした具とパリパリとした海苔のハーモニーが楽しめる“手巻き焼きそば”と表現すれば分かりやすい。
かつて“小江戸”と呼ばれた埼玉県川越市の地ビール「coedo」の昔ながらの苦味が効いた青いラベル「瑠璃-Ruri-」(900円)との相性がいい。店舗で焼きそばをつまみに、浅草の雑多な雰囲気の中、アルコールを楽しむ居酒屋的焼きそば店として利用する人が出ているのも頷ける。
